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ベルは面白いことが好きだ。大好きだ。そのためなら部下だって平気で陥れるし一応上司でもあるスクアーロにだって平気でナイフを投げつける。もっともそれで彼らが傷ついたことはないのだが…残念ながら。
今日は久しぶりに任務もない暇で、穏やかな一日。
時折ヴァリアー邸のどこかで誰かの悲鳴があがっていたりするがそれも日常の一端でしかない。あの悲鳴はルッスーリアの部屋の方なので恐らく例の趣味の悪いコレクションを見てしまった哀れな隊員たちが絶叫しているだけなのだろう。
さて、今日は一体何をしようか。誰で遊ぼうか。
そんなことを考えながらゆったりと廊下を歩み、ああ、そういえば面白い玩具が居たなということを思い出す。

「桐島スイ」

名前はしっかりと覚えていた。顔も覚えていた。だが最近は見ていない。
死んだっけ?殺したっけ?
ベルはあまり隊員のことを覚えていない。ふと思い出したと思えば去年任務中で死んだ隊員のことだったりすることもよくある話。あれもなかなか面白い人材だったんだけどなー、なんて思いつつそれを知る人物のところへ歩む。怠惰な王子は面白いと感じるならば動きまわることを厭わない厄介な人物である。


「あの子なら今は日本だよ」

ベルの質問に答えたのはマーモンだった。ちょうど彼も独自の研究だか何かを終えたところで珍しくベルの前に姿を現したのだがその答えを聞いてようやく彼女のことを思い出す。ああ、そんなこともあったな、と。

「あのセルフ動物園結構楽しかったんだけどなー」
「あれを面白がってたのはベル、君だけだよ。鎮火させる僕の身にもなってほしいね」

桐島スイとは突出した能力を持つ幻術使いである。
マーモンが初めて彼女をこのヴァリアーへ連れてきたのは昨年だっただろうか。マーモンと同じようなフード、服を着た彼女のことをマーモンの女バージョンだと揶揄した記憶もある。実際見た目はまさにそうだった。性格的なことを言えば全く逆と言っても差し支えはなかったのだが。正直、だからこそベルは不思議で仕方なかったのだ。何故この地味で暗い女をマーモンが呼んだのかと。彼の好む金になりそうにもない、彼に益のなさそうな女でしかないのに、と。

答えはすぐ数秒後、彼らの前に突如現れた。極度の緊張で暴走状態に陥ったスイは己の力をコントロールできなくなり、キメラの数々を創造したのである。いくら非日常に慣れたヴァリアーの面々と言えどさすがにこの手の驚きは初めてで、結果的に傷を負い暴走したベルが彼女の創造物を全て壊し、その間にマーモンがスイを正気に戻らせ事なきを得たというわけだ。以降、精鋭部隊は彼女を畏怖するようになったし幹部たちも煩わしいので出来るだけ顔を合わせないようになった。
だがベルは違う。
向こうから自分を暴走状態にまで陥らせたことは腹立たしいがそれ以外は面白いと思ってしまったのである。年下であるということもあり、また今は日本にいるフランと違って素直だ。ナイフを投げれば彼女は間違いなく死ぬだろうしそれだけが面倒くさいなと思っただけで。

「幻覚ってそんな簡単に上手くいくわけ?」
「…あの子に関しては気の持ちようってところが大きいかもね」
「マーモンにしては曖昧な返答なんだな」

ベルは幻術使いとしての才能は一切ない。ただマーモンの幻覚を間近で見続けることにより多少の耐性は持っている程度。身近に彼がいたものだから、この幻術使いが如何にレベルが高いものか知るのに随分時間がかかってしまった。何しろ任務で殺すような相手に幻術使いが居たりしても全く怖くない。質としても子供だましにもほどがあるし幻術を練るのに時間がかかりすぎて発動されるよりも先に殺してしまう方が多い。
そんなマーモンが見込んで、育てた子供。本人に聞いたところで上手くはぐらかされるだろうがヴァリアーへと連れてきた時点でそのポテンシャルはかなり高いものであると皆が思っていたことだろう。もっともそれをこなすにはいささか経験が足りないのだが。そして、…そうだ、精神的にも弱すぎる。マーモンが一度本人の研究所へと連れ帰らなければヴァリアー邸はキメラの生息地と化していたであろう。

「で、日本のどこなんだよ」
「六道骸のところさ」
「ふーん。ま、それが妥当か」

”なかったことにされた未来”においてはあの心底憎たらしいことしか喋らないフランがヴァリアーに居たが、現在あの子供は六道骸のところにいる。今となってはマーモンも存命なので不要という処置をとっているのだ。なのであそこは現在六道骸とクローム髑髏、そしてフラン。マーモンと同格程度の力を持つ幻術使いが揃っているので彼女を送り込むことに関しては何ら不自然なことではない。

「しししっ、じゃー向こうでもまたやらかしてっかもね」
「だろうね」

決してデキの悪い人間…とまではいかないが、所属としては桐島スイはれっきとしたヴァリアーの一員だ。当然幹部とまではいかないが将来それに近しいところまで上り詰める可能性を持った人間。ベルにとっては後輩にあたる彼女のことを自分なりに可愛がっていたわけで。

「あいつ元気してっかなー」

マーモンはもう話がないのであればととっとと姿を消し、またベルは玩具を求め廊下を歩き続ける。だがすっかり興味は彼女へと注がれていた。精鋭部隊が被害にあう確率は格段に減ったことだろう。
桐島スイ。すぐに気絶するし可愛げのない幻術ばかり使う、根暗な女。次に会ったときには少しはマシになっているだろうか。

(でもまあ、次に日本に行ったときには顔出してやっかな)

そんなことを思いながらベルは大きく欠伸をする。2度目になるがベルは彼女のことを気に入っている。非常に分かりにくいが、これは彼なりの気遣いなのだ。

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