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桐島スイは異常な力を持つ人間である。


創造-A 
―フランによる報告書―

そもそも創造というものは人間が適当に「こうなればいいな」と思っただけで出来上がってしまうもので、そこまで難しくはない。ただそこに術士としての力を乗せることができるか否か。それが他者に見えるか否か、感じられるか否かというだけのことで。

しかしながらその、”創造したモノに対して力を込める”というこの工程こそが術士の腕の見せ所といったところである。
術士同士の戦いでいうのであればどれだけ綿密で、しっかりと完成された創造物が作り出せるか。その創造物に対してどれだけの術士として、そして”構築”の性質を持つ霧の炎を込められるかにかかっている。

因みに力の強い術士が適当な創造をして作り出したものと、本物と紛うほどの強固な創造で作り上げた力の弱い術士との幻覚同士の戦いであれば、この場合力の弱い術士の方が上回ると思いきや結局は込められた術士としての力、及び霧の炎の量に依存する。
力の弱い術士がどれだけ一生懸命術を練って攻撃してきたとしてもフランが適当に作り出し続けているムクロ人形という骸の姿をした適当に適当を重ねたとしか言いようのない盾人形を壊すことは敵わないのである。
一度だけ骸のいない任務で例の人形を使用したことがあったがあの時の術士達の絶望した顔は愉快すぎて忘れられることは出来ないだろう。
世の中はいつだってとてもシンプル且つ残酷なのだ。

「ミーとしてはスイにはやっぱり可愛いものを出してほしいですねー」
「…例えば?」

教えるのは苦手だ。これはどの術士にも当てはまるものだと思う。
何となくの感覚で出来てきたものを改めて説明するのは難しいし、この前なんてきちんとスイに教えてあげようと思って少し勉強してみたり文字に起こしてみたりしたが結局それが原因でフラン自身、暫く幻術を出す時に調子が悪くなってしまったのである。
だから今回は何も考えないようにして自分の先輩であるクロームや骸から教わったことをそのまま伝えることにしたのだ。

桐島スイ。
破格の力を持っているということは当然聞き及んでいたしクロームとの実践練習や精神世界での彼女の力を見ていればそれが本当であるということは分かっていた。
数値化でも出来ようならば恐らくは自分よりも純粋に炎の圧も、質も何もかもが大きいに違いない。だからこそ彼女の事が心配で仕方がないというのが本心だった。

このご時世、リングさえあれば弱い力の人間でもそこそこの増幅や術の強化が見込まれる。
そんな中、もしこの純粋な彼女が誰かに連れて行かれれば。
その稀代の力が悪用されるのであれば。
例えば有幻覚で隕石でも落としてしまえば。眠っている全員に悪夢を見せ、呪い殺すことだって可能だろう。肉体での戦いではない故に距離を必要としない。それが術士の特徴であり強みだ。
だからこそ、

「…フラン?」
「何も無いですー、じゃあ試しにウサギ。よく漫画とかであるウサギを出してみてくださいー」
「うん」

いつもは頼りなげに揺れているその瞳が、術を扱う時は自信に満ち溢れキラキラと輝いていることを彼女は知っているだろうか。その姿が自分をとても誘うことを彼女は知っているのだろうか。
フランの言う事に対し真面目に頷いた後、目を閉じるスイ。瞬間、彼女の身体から湧き出るこの霧の炎の圧と質に、恐らく同じ術士達は感極まって涙する者だっているに違いない。そう思えるほどの炎は、しかし自分の師である骸曰く底知れぬ量であるという。

確かに彼女が力を使っているのは随分見ているが炎切れを起こしているのを見たことはない。
勿論フランは自分の限界量は知っているのでずっと力を放出しなければならない長期任務だったとしたら少しずつ調整をして所謂炎の節約をしなければならないのだが彼女はそれを行う事自体が不可能であった。調整が出来ず、常に100%の、全力で。しかしその全力で放出し続けたとしてもそれらが弱まった試しがないのだ。
あまりにも不可思議な事に何なら耐久で炎を出し切る事も申し出たスイだがそれは危険であると骸が強い口調で断った事をフランは知っていた。

炎切れとはつまり、生命の危機にも直結する。
元々安定もしなければ少しの感情の高ぶりでとんでもない有幻覚を生み出し皆を翻弄するような力を持つ人間がもしもそんな状況の陥り暴走でもしてみたら黒曜センターの損壊だけでは済まないというのが彼らの判断であった。

「……」
「スイ、それ、ウサギ…ですかー?」

彼女は時にとんでもない才能を発揮する。
ウサギを創造しろと言っただけで何故こんなにも不格好なものが出来上がってしまったのだろうか。
草食動物がこんなにも爛々とした目をして尖った牙や爪を持っていてたまるものか。しかも大きさだってライオンか何かではないかと言いたくもなるサイズでそれでも創造主であるスイに対しては主人だと分かっているようでグルルとこれまたウサギとは思えぬ強そうな鳴き声をしながらスイの手に頭を擦り付け撫でてと言わんばかりに彼女を見上げていた。
困惑していたのはスイだけではない。
フランですらあまりの出来の悪さに言葉を失っている彼女に対しいつもの毒舌すら浮かばないほど、口をあんぐりとして閉じることはなかったのである。

「おかしいな、こんな、筈じゃ」
「…まあスイの言うことを聞く様子だったら及第点でいいですー」

ただし次はちゃんとウサギぐらいは覚えましょう。そう言ったフランに「はい」としょげた様子でスイが答えたのであった。


――桐島スイ。
初めて会った時から異様な創造力を持っている事は未だ骸に報告はしていなかった。あれをどう表現すれば良いのか分からなかったからである。
思い描くのは彼女が黒曜へとやってくる少し前の出来事。彼女がフランの前で初めて気を失い、そして暴走したあの時にフランだけが見ることのできたおどろおどろしい創造物を一生忘れることは出来ないだろう。
洞窟めいた場所、メスを持った男、それから謎の台に置かれた未だ尚動き続ける心臓に、逆十字の祭壇。咀嚼。

『お前は一生逃げられませーん!』

そして、あの声。
ウサギの創造だけで照準を合わせるのであればただ単に術士としての創造力が無い、という結果だけに終えるだろうがアレは一体何だろうかとフランの中で渦巻いていた。

そして以前クロームとの修練の最中、彼女の身を拘束しようとしたスイの創造物の事も気にはなっていた。
その時内側にいたクロームは見ることが無かっただろうがあれは繭であった。彼女を捉えようとスイが半ば無意識で創造したそれは見た目こそただのふわふわとした白いそれであったしクロームだって一瞬の事でよく理解はしていなかっただろうがフランはしっかりとそれを見ていた。見逃すことなくはっきりと。だからこそ本当は手を出すまいと思っていた2人の修練にも手を加えクロームを守ることにしたのだ。

あの白い繭は決して彼女を捉えるだけではなく、圧して殺そうという力の域にまで達していたことに誰か気付いていただろうか。
クロームの創造した壁を容易く壊し、幾重にも込めたフランの創造した壁ですら半壊させたそれは驚くほどスイにとっては無意識だったということに気付いていただろうか。
しかしそれを誰かに話すことは憚れた。
骸にはいずれ自分の考えが纏まれば話すつもりではあるが女性2人に聞かせればどちらも傷つく結果になるに違いないと踏んだのである。

『桐島スイ、創造力は欠けるものの異常な力所持。』

文字にすることはそう容易いことではない。
結局彼の手書きによる報告書はミミズの這ったような文字でそう、締めくくられていたのであった。
以上。


「…フラン、僕の言いたいことはわかりますね」
「師匠がもう少し遅かったら面白い展開だったんですけどー」
「…トレーニング量を増やしましょう。スイの部屋へ行く体力等残らぬよう」
「ゲロゲロー」


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