CoCoon | ナノ
oCoon


「それで、アルコバレーノ。君の本当の用事とは何ですか?」
「…君みたいに回転がいいと話すのがとても楽で助かるよ」

一方、こちらは師匠組。
互いの弟子を隣の部屋へと移動させるとおおよそ10になったところだろう小さな子供は珍しくも骸へと茶を用意し、ズズッとそれをすすった。
コーヒーや紅茶ではなく珍しく日本茶であるのはあの弟子だという少女の影響なのだろうか。10年前の事にもなるがかつてリング戦で命を賭け戦った彼とまさかこんな場で茶を飲むことになるとは思わなかったがあの強欲で知られたアルコバレーノをここまで変えたのかと思うと彼女は一体何者なのか気にならない訳がなかった。

「あの子…スイをしばらく預かって欲しいんだ」
「交換ではなくてですか?」
「…フランか。それも考えたんだけど皆がいらないっていうから却下だよ」
「クフフ、残念です」

思い切り嫌がられる様子が容易に想像できて思わず「でしょうね」と返す。
10年も一緒に過ごせば骸だって色々と経験をしてきたわけで、しかもヴァリアーである彼らは今となっては違うが”なかったことにされた未来”で一度フランと共に身をおく生活をしていたのだ。どうせあの毒舌っぷりを大いに発揮し怒りを買ってきたに決まっているし、ただでさえ血を好む荒くれ集団だ、自分達の中にいたときよりも事は全て大きかったに違いない。仕方はないだろう。
笑みを漏らすとマーモンは溜息をついて「実はね」と話し始める。

「…あの子の面倒を見られそうな子はヴァリアーにはいないんだ」
「?それってどういう」

どこからどうみても大人しい少女だというのに。
何だったらどちらかというとそれこそあの荒くれ集団に耐えられそうなのはスイの方だとすら思えるぐらいなのに何か異端児なのだろうか。

「し、しししし師匠!!!」
「何ですかフラン」

バンッという音が聞こえたのはその時だった。
珍しくも大きな声を出す弟子の声に面倒くさそうな様子を隠しもせず振り向いた骸は唖然とした。
先ほど大人しくしておくようにと伝えたはずのフランが慌ててこちらへ向かって走ってきている。その腕にはぐったりとしたスイが横抱きで抱えられていて羨ましさに立ち上がり、そしてその隣でマーモンが「あーあ」と額を押さえていた。

「お前、とうとう…」
「ちがいますー!師匠とは違って初対面の女の子に手なんか出さないですー!」

アレアレアレ!と後ろを指差しながら走ってくる彼の背後をひょいっと覗くと。

「…なっ」

――何なんだこのめちゃくちゃな技は。
フランの後ろ、白い廊下から湧いて出てくるのはこの世とは思えない不可思議な動物の数々。
何かと何かを足したような、所謂キメラ種とも呼ばれる化物がフランの後ろからやってきていてカエルの被り物に対してガブガブと噛み付いている。
それどころかキメラは移動しながら互いに食い合い、3匹が2匹に、2匹が1匹にと合体を重ねとてつもなくおぞましい姿になりながら身体の割りに沢山ついた目が爛々とフランに狙いを定めてゆっくりと移動していた。

ひどい腐臭に思わず骸も眉根を潜め鼻を押さえる。五感に触れられる程度までにそれは生々しかったが確かにそれは幻術であるに違いなかった。そして、慌てているということはフランの仕業ではないということぐらいは流石に分かる。
もちろんそれには幻術で対応しているのだろう、フランの後ろには生贄とばかりに用意されたムクロ人形第102号が囮となりキメラに踏み潰されたり摩り下ろされたり噛み付かれており「クフフフフ!」と笑い続けているという酷い扱いとなっていてそれに対してはヒクリと頬を引きつらせた。

荒々しく、攻撃的で、醜いこの術の主は間違いなく、スイだろう。
あの魅惑的な少女がこんな創造をするとは到底思えなかったが。

「説明より先に見せてしまうとは」

はぁとマーモンが大きく息を吐き出す。
物音もたてず静かに歩き、フランの腕に抱えられているスイへと手をかざした。
それにピクリと反応した怪物たちが今度は一斉に、スイを守ろうとしているが如くマーモンの周りを取り囲む。

「スイ」

今にもマーモンを飲み込もうとした大蛇が彼の凛とした一声でピタリと動きを止めた。
それと同時にドクンと身体を震わせ、バチッと開く彼女の目、消え去る幻術。
目を開ければ突然フランの顔があり驚きに目をさらに見開くもすぐさま周りを見渡し状況をすぐに把握したようで顔を青ざめさせた。

「スイ、大丈夫ですかー?」

静かに降ろすと今度はフランに対して「ごめんなさい」と泣きそうな顔をして静かに抱きついた。
己の胸にふにゃりと当たる柔らかいソレに先ほどまでとはまた違う意味で鼓動が再度高鳴った。気がつけば彼女の身体は少しだけ震えている。

元々持つ術士としての力…霧属性の炎は生まれながらにして最大量が決まっている。術士は鍛えれば鍛えるだけ力が増えるわけではなく、修行をしたとしても炎を操る手腕が精練されるだけだ。つまり、あまりにも強大な力を持っていると今のようなことも起きないわけではない。今、フランと骸の前に現れたのはその典型的であり、そして珍しいタイプの暴走だった。

「…というわけなんだ」

言わずともわかってくれ、といわんばかりのマーモンの言葉にスイはフランにぎゅうと身を寄せる。

「何度かヴァリアーにも連れて行ったんだけど極度の緊張やストレスを感じるとこうやって毎日暴走してね。皆グロッキーになってしまって却下されたよ」
「クフフ、面白い娘だ。…いいでしょう、預かりますよアルコバレーノ」
「…スイ」
「……はい、お師匠様」

マーモンによって手を引っ張られ大人しくスイはフランの腕から抜け出しその後ろを歩む。
それから静かに骸を見上げた。不安げに揺れる瞳は何ともそそられるが、そういえば先ほど手を出しておいてよくあの時に暴走されなかったなと時遅くして安堵した。
力の程はフランと同等かもしれないが、何も知らない間にあんな術を脳に叩き込まれてはたまったものではない。

「こっちが六道骸。そっちが…もう話しているだろうけど、フランだ。どちらも術士であいつらよりは耐性もある」

その言葉に全てを把握したのだろう。顔を僅かに青ざめさせ師匠であるマーモンを見返すが彼は一切声音を変えることもなくスイのことを見ていた。10年も見てきた弟子を期間限定であろうと手放すのはどれほどの気持ちだろうと骸は思ったがフードを被ったマーモンからはとうとうそれを読み取ることはできなかった。

「修行だよ。できるね?」
「……」
「迎えに行ってあげるから。それまでやれるね?」
「…は、い」
「いい子だ」

珍しく口元を緩めるマーモンに釣られて彼女はようやく笑みを浮かべ、
そしてそれが答えとなったのだった。

prev / next
bkmtop
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -