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そもそも何故、桐島スイという人間がこの特殊な環境下にいるのか。
話は半年前に遡る。


02.回想致しましょう


それは何の変哲も無いただの日曜日。
骸とフランは突然、意外な人物によりとある場所へと呼び出されていた。

到着した後、その場を見渡した骸は「気に入りませんね」と素直な感想を漏らす。何処と無く見たことのあるような真っ白な空間だった。かつて自身が命の危機に面したあの部屋に酷似したこの部屋は、しかしボンゴレの敷地内で間違いはなく。

あの時の事を誰にも教えたこともなかったが、もしも誰かが知っていて敢えてここへと呼び寄せたのであれば相手はとんでもなく趣味が悪い。けれどあの記憶は骸と、あとは相対したミルフィオーレの人間でしか知らないだろう。しかし彼を不快にするには十分すぎた。

「…全く、何故僕がこんなところに」

いくら顔を歪めようともその美しさは全く損なわれることは無い。
骸は忌々しげに呟き、そして隣に立つ少年はそれに対し大きな欠伸をしながら「そうですねー」と同意した。
――同意はしたのだが、

「それはミーのセリフですー。マーモンとかいう人の弟子のお披露目に師匠はともかくミーまで来なければならないのか不思議で不思議で仕方ないですーというか面倒くさいんでやっぱり帰ってもいいですかー?」

今まで自分の側に置いていた人間は全員、骸に付き従っていた者達であるからこそこの少年に対し苛立ちが倍増するのも仕方が無いのだろう。幻術で用意した三叉槍で少年の頭にすっぽりと被せられた林檎の被り物を突き刺した。
涙目になりながらも少年は骸へと恨みがましい目を向けたがもちろん気にする彼ではなく、何故こんなことになってしまったのかと10年前の己の行動を悔いていた。


変更された未来、無かった事にされた未来、修正された未来…
多種多様で呼ばれる白蘭とボンゴレファミリーの戦い後にも色々な出来事を経て復讐者の牢獄より特例で開放された骸は、その未来で既に己の弟子となっていた優秀な術士である10年前のフランの獲得戦に勝利―とは未だに認めてはない―した。
その後はこれまた骸の思惑と期待を大きく裏切ったフランの指名によりヴァリアーではなく黒曜へと連れ帰りこれまた色々とありながら10年を経て今に至る。まだ多少は荒っぽいが術の腕は確かで、決して認めたくは無いが将来性は十分にあった。

そして今、当の我侭弟子であるフランは骸と共に解せぬといった表情を隠しもせずこの場へとやって来ている。フランにいたっては既に帰りたい帰りたいと駄々を捏ねる始末で、コレを理由に己も帰りたくはなっていた。

「約束の時間まで待って、それから帰ります」
「えー」
「クフフ、沢田綱吉であれば応じる必要もありませんが相手はあのアルコバレーノですからね。多少恩を売っても損はありません」

ここはボンゴレの中でもヴァリアーが有するとある屋敷の一つ。
どうやら白蘭を倒した事で沢田達が経験した10年後とはまた違った、とある一つの知らない選択肢を見ることが出来るようだ。損はきっと無いだろうからと何故かクロームの熱烈な言葉により足を運んだ2人だが間もなく時間になろうとしているも現れる気配はない。


――知らない選択肢。
即ち、死ぬ未来を辿るのみであったはずのマーモンが最期を送らなかったこと。
もちろん沢田綱吉達が10年後に飛んだといわれるその世界において既に死んでしまっていたマーモンにその記憶はなかったようだが、全てを終え彼らが元の世界に戻った時、沢田綱吉達が相対した未来の記憶を得たヴァリアー側も術士の必要性を十分に感じたらしい。
フランは獲得できなかったがそれから競うようにして術士をひとり手に入れ、そして今日の呼び出しの内容はその時の術士のお披露目の場でもある。
何しろ選んだのはあのアルコバレーノの一人、マーモンだ。マフィアとしては全くもって興味がないが、術士として気にならないといえば嘘になる。

とはいえなぜか先にクロームが懐柔されフランと骸に対し三日三晩の必死な説得さえなければ自分達もこんなところに足を運ぶことは無かったのだが。
疲れましたーなんていいながら骸の足元でゴロゴロと転がり始め、終いには幻術でパイナップルの山を作り始めたフランに対しその趣味の悪さとことごとく人を苛立たせる術に長けているその口先にヒクリと頬を引きつらせながら骸は足蹴にしながら時計を見た。


あと、3分。
クロームだって会わずに帰ったとしてもこの理由を述べれば不機嫌になることもないだろう。何だかんだ彼女に甘いことを自覚しつつ彼はフランをその長い足で転がしながら腕を組んだ。
どうせ術士。クロームのような素直な女性の方が珍しいということは分かっている。傲慢で強欲で、そんな男術士の方がこの世には多いのだ。それならばきっと自分たちと性格はきっと不一致なのだろう。珍しく根拠のないことを骸は考えながらその時が来るのを静かに待っていた。


そんな様子を2対の瞳が見ていることなんて、彼らは珍しく、気がつかなかった。

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