花びらの絨毯

「XANXUSさん、お花見とかに興味はありますか」

いつの会話だっただろうか。いつもの話題の中で一瞬だけ出てきたその言葉。特に興味はないと言えば無かった。そもそもXANXUSに花を愛でるというそんな趣味もなければ発想すらない。しかしその疑問を投げかけてきた人間が凛であるのであれば話は別だ。

「いつが見頃だ」
「…お外を見ないんですねXANXUSさんは」
「あ?」

そうして凛はふふ、と楽しげに笑いXANXUSの隣から立ち上がり部屋の窓を開ける。凛の小さなアパートはXANXUSが入ったそれだけで十分と狭い印象を与えてしまうが彼女との逢瀬の際、日本であれば始まりも別れも彼女の家であると2人で決めてあった。今日も勿論例外ではない。学校が休みの週末までに仕事を粗方片付け、残りを全てスクアーロにぶん投げてやってきたのだが特に何かをしたくて、何処かへ行きたいと思って来た訳ではなかった。

彼女との思い出作りは正直、XANXUSとて悩むところはある。
既に未来の、10年後における未来では彼女と恋仲であったのだ。とは言えその期間は随分と短くイタリアの、彼女の職場で食事をしたぐらいしか記憶にはないのだが。そこには勿論成人として仕事尽くしになった凛の状況もあるし、地位も少し変動したXANXUSの立場もある。しかし今はまだ、違う。恋仲、というその関係性は変わりなかったが今度は2人ともこうやって時間を作ろうと思えばたっぷりあるのだ。しかしながら――…色々と知っている、関係でもある。XANXUSにおいては凛の死に際まで見てしまうという状態であり、凛にとっては自分の死に際を看取られるという一風変わった記憶まで持っている訳で、だからこそというべきなのか局所でXANXUSは過保護な所を見せてくる。
極端に言うのであれば凛をあまり外に出したがらない節がある。これは困ったものだとヴァリアーの幹部たちも思っているところはあるがまだ日も浅い為、仕方ないかと思っているところもある。スクアーロからはこっそり「もう少しで落ち着くと思うから」とXANXUSの気持ちを汲むよう頼まれていては凛だって自分の所為だと分かっているところもあるもので頷かずにはいられなかったのだった。

互いにとって、もどかしい距離とでも言うのだろう。だけど今はまだ、隣にいて、話して空白を埋める。それだけで十分だと思えてしまうのだ。共依存に近いと思われているだろうがあながち間違いではない。

「XANXUSさんが歩いて此処に来てくれた時もすでに、咲いていたと思うんですけど」

窓を開ければ彼女の真っ白な部屋に入り込んだ桃色の花弁。ひらひらと舞い込んだそれはXANXUSの隊服の上に落ち、摘まみ上げる。「綺麗でしょう」問いかけられ「そうだな」と答える。イタリアでは滅多に見られぬ桃色の景色がそこからは広がっていた。凛の場所に来るまで空なんて仰ぐこと無く足元ばかりに気を取られ、そして凛の事を考えていれば満開の桜なんて気が付かなかったに違いない。

「じゃあ、ちょっとだけ見に行きましょう。お弁当とかは作ってないのでお散歩です」
「凛」
「え、…っわ!」

凛頭の上にもついた花弁。それを取り除きついでにその白い額に戯れに口付けてみればボンっと赤くなる顔。外に出したくないしこうやって触れておけるのであればずっとそうしておきたい。しかし閉じ込めたい訳でもない。

凛のいろんな表情が見れるなら何処でもいい。

新しい発見、確かにこの時間は悪くないとXANXUSはふと思いながらまたいつものように手を繋ぎ扉を開けた。

  

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