すべての開けた夜に関して

例の屋敷から出る事となり凛はあれから普通の大学生として毎日を送っていた事をベルはよく知っている。XANXUSの命もありよく日本へと渡り任務のついでに彼女に会いに行ったり様子を見ていたからだ。
あれから彼女と彼の仲が特に急接近している訳でもない。
XANXUSはイタリアへ、凛は日本へ。
当然交わる訳がないのだから。
しかしながら凛はスクアーロが用意した白い箱の所為で奇跡的に自分たちと同様未来の記憶を手に入れ、その記憶の通りの道を歩んでいる事も知った。まだこれはXANXUSには報告をしていないが恐らくきっと、彼だって大体は分かっているだろう。だからこそ手放す事もなく繋げているのだ。

しかし一つだけ不可解な点があった。
沢田綱吉、或いは六道骸を除く守護者達は10年バズーカーで本体ごと飛んで未来を経験しているが故に彼らには白蘭を倒すまでの10年間の記憶はない。未来の自分達と10年前の彼らと遭遇しているが、しかしその時点で凛は死んでいる。
確か凛は沢田綱吉と知り合いであったはずだが並盛から離れた土地である彼女と彼らが出会う可能性は、交わる軸が有り得るのだろうかと。あくまでも佐伯凛という人間は極稀な大空属性を持ち得ていたとは言え至って一般人なのだ。

――…どうせいつか分かるだろう。

そう思って、気軽に身構えていたのだが案外間近に、身近に迫っていた。
それがアルコバレーノの代理戦争。
そしてXANXUSが来日したと知り喜んでヴァリアーの人間に会いにやって来た並盛。彼女が自分の足で、やって来てしまったのだ。
勿論彼女を危ない目に合わせる訳にはいかなかったので並盛に居る時は必ずXANXUSの隣に居ることを約束させ、自分たちの現状を彼女に聞かせれば途端に顔を青ざめさせたがこれも一般人であるからこその当然の反応なのだろう。

「俺は死なねえよ」
「…分かっています」

しかしいつの間にやら仲良くなったらしい。凛の肩に大人しく座っているマーモンを見ればやめてくれなんて言えない事もまた、知っていた。
――…それがもう数日前の話である。代理戦争の2日目にはバトラーウォッチを破壊されたベルは戦うことは出来なかったがある意味自由の身となりXANXUSと共にいる事よりも安全ということで凛の隣に居る事となっていた。そして、


「やあ凛チャン、久しぶりだね」

全てが終わり、全員が収容されることとなった並盛病院。
XANXUSの無事を知ったものの凛が結局暫く此処へ来ることが出来なかったのは勿論彼の命令であるが故。終わった直後となれば全員が瀕死な状態で、その時の様子は流石に彼女に見せられるものではなかったからである。
ようやく許可を得、お見舞い用に花束を買い、少しだけ緊張をした面持ちの凛を横目に病室へと続く廊下を歩んでいる最中だった、彼と出会ったのは。
本当に驚いた時ほど反応ができないとはこの事だろう。
XANXUSの病室の前、彼女の腕の中にある白い花を一輪抜き取り微笑む目の前の男は会ってはならない人間であり。

「……シロ」

記憶を得た凛は当然、自分のことを殺した相手のことだって覚えている。
本来であれば何があっても敵を遠ざけるのが通常ではあるが如何せんベルの隣にいるのはボスであるXANXUSの未来の婚約者である凛であり、そしてここはXANXUSの病室前で、しかも全員の体調が万全ではない。
この時代において既にXANXUSと白蘭は出会ってはいるし一応顔も合わせ共に戦った人間となっているが凛を挟めば話は全然違ってくるだろう。
これはまずいと思ったのはベルだけで、白蘭も凛も両者互いに視線を逸らすことはなかった。好戦的に笑った白蘭しか見たことがなかったが凛に対してはこう優しい表情を浮かべるのを不思議に思う。未来においては凛も、白蘭にとっては潰す相手であったはずなのに。…まさか、と嫌な予感が過ぎる。

「やっぱり幼いね」
「シロもね。ええっと、こういう時って久しぶり…って言うべきなのかな」

自分がもしも凛の立場であったら自分を殺した人間とこうも普通に相対出来ただろうか。もしかすると大らかな性格の凛の事だ、所詮は未来の記憶であると大して気にしていないのかもしれないが流石XANXUSの気に入った女というところだろうか。
穏やかな時間はそんなに長くは続かない。
物凄い勢いで近寄ってきた見慣れた気配にあ、ヤベと思う暇もなく白蘭と凛の間にある扉が容赦なく開く。

「…もう一つ穴を開けてやろうか」

大変、ご立腹である部屋の主がとうとう姿を見せてしまったのだ。
凛の事を己の胸へと引き寄せ、睨みつけるXANXUSの視線はつい久しく見ていなかった程の険しさで白蘭を射殺さんとばかりでそれに対し先ほどまでの柔らかさは何処へやら、ベルの見知った冷たい笑みを口元に貼り付けた。

「やだなー怖い怖い」
「…凛、来い」

凛の答えも聞かずに扉が荒々しく閉まる。
声をあげ楽しげに笑った白蘭はまるで玩具を見つけた子どものように目を輝かせている。嫌な予感は膨れ上がるばかりだ。王族の血は流れていても超直感なるものは持っていないがそれぐらいはベルにだってわかる。そうして取り残されたベルに対し「またね」と手をヒラヒラと振り白蘭もまた、自室へと戻っていく。
珍しく動けなかったのはこれからどうなるかよく分かっていたからだ。

「あーあ、」

穴の開けられた壁がまだ修理もされていない事、それはXANXUSもあまりの怒りに忘れていたらしい。
先程までのドンパチの所為で炎切れであったはずなのにドアが閉まった後、誰かの楽しげな笑い声、そして激しい横の部屋に対する炎の一撃にベルは思わず溜息をつかずにはいられなかったのであった。

「王子もうイタリア帰りたい」

楽しい病院生活はまだまだ続くらしい。
(Thanks for request)

  

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