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「協力、感謝するぜ」

 はぁ、と何度目かになる大きな息を吐いたかと思うとディーノさんは顔を上げ律儀に礼を述べ、笑みを浮かべた。
 …改めて見ると本当に顔が整っていらっしゃる。
 ここの世界の住人の容姿が軒並み普通ではないことを重々に理解しているつもりでもこの人はなんと言うか、別次元と言うか、アイドル? キラキラの王子様みたいな感じ。今は話していた内容が内容だっただけにちょっと憂いを帯びているようにも見えるけれどそれだって様になっている。確かスクアーロと同世代だったはずだから私とも似たような年齢のはずなんだけど…うん、隣に並ばれると違和感がすごいな。アイドルとそのファンみたいな絵面になりそうでちょっと辛い。そんな人と二人でこうやって話していられたのも普段の私ではあんまり考えられないことだ。ヴァリアーの人達と出会ってからさらに耐性がついたっていうのもあるのかもしれないけれど。

 さて、質問も飛んでこなくなった。
 そろそろお開きなのかなと思ったけれど立ち上がることはなく、向こうは向こうでこちらをじっと見ているだけ。これが私の次の言動を待っているのか、それともただの思考タイムなのか。
 …まあいいか。その辺は分かってはいないけど、これをチャンスとばかりに先に聞いておきたい疑問を口にする。

「…あの、私に何か罰とか処分とかってあるんでしょうか」

 ぴくりとディーノさんの眉が動く。
 だけどこの関連の話は予想外でもなかったのだろう、あんまり驚いたような顔はしなかったけれど彼はまだ口を開かない。

「私はお話した通り連れて行かれて、戻ってきただけなんです。それも証拠とかはないんですけど。でも何というか、…連帯責任的なの取らされちゃうんでしょうか」
「レンタイセキニン」
「あ、もちろん私は何もしてませんよ! してませんし、彼らのことなんて結局何一つ知らずに現状って感じなんですけど! でも一応…あちら側の人間として皆さんの前に現れたわけですし」

 唯一の疑問と、このヴァリアー戦においての懸念。それがこの件が片付いたあとの、私の処遇だった。

 『物語がそのまま進んで終わりを迎えること』、それ自体に何も疑問は抱いていない。私は何もしていないし、見ている限り多少の歪みや差がありつつもおおよそ知っている流れになっている。
 あとは今夜始まる、総力戦。守護者全員集合なわけだけど、私は部外者に近いのでこのまま許されるならまた引きこもることになるのだろう。だけど、この人がそれを許すことなく連れ出されたらとんだ番狂わせになる。車椅子に乗ったスクアーロと再登場することになるのは嫌だなあ…。そのまま彼らと共にイタリアへ送還されるのも。

(詳しくは書かれてなかったと思うんだけど、)

 このヴァリアー編が終わったかと思うと慌ただしく次の未来編が始まっていたはずだ。その際ヴァリアーの処罰なんかは書かれておらず、ただツナ達の元から、日本から去ったような描写だけがあったような気がする。
 痛い目にはあっていないだろうけど、イタリアに戻った彼らにお咎めなしということは無かったんじゃないかなと思う。ツナ達からすれば主軸はボンゴレリングを賭けた戦いではあるけれど、引いて見ればヴァリアーが自分の所属している組織に楯突いたような結果になっているのだ。彼らが勝てばまた話は色々違ってきたんだろうけど、そうはならなかったので彼らには罰が下るのは当然だと思う。そこは同情しちゃならないのだ。

 …じゃあ、私は?

 私の立場は、今どうなっているのだろうか。
 平穏に住んでいたところを拉致されて色々振り回されたって言うのが一応私の言い分にはなるんだけど、彼らからして私のことはどう見えているのだろう。信じてくれるのだろうか。私はどの立ち位置にいるのだろうな。
 そう考えたとき、正直ディーノさんがここへ来て、私の話を聞いてくれていることでなんとなく想像はつく。

 ―――私が何もしていないから、判断が難しいのだ。

 例えば誰かに武器を向けていた、とか、ひどい言葉を浴びせた、とか、彼らと同様何かしらボンゴレに対し敵意を剥き出しにしていたりだとか。そうであったら彼らも判断しやすかったに違いない。ヴァリアーの一員として、敵として見たらいいだけなんだから。
 だけど、私はそうじゃなかった…のだと思う。だって、そうじゃなければわざわざ私の話なんか聞きにここに来ることなんてない。ボンゴレ側の判断ひとつでいい。ここに住んでいる時点で私が元々誰の庇護下にあったのかっていうのも分かっているはずだ。

(しかも怪しんでる相手があの雲雀恭弥の同居人、とかさあ…)

 ボンゴレは、と言うか、ツナ側というべきなのかな。彼らからすると、雲雀恭弥と言う人間は必要不可欠な存在というのは読破した私にはよく分かる。
 最強の不良、並盛の秩序を守る風紀委員長。
 最初は好戦的な学生として描かれていた彼は戦闘分野に関してはツナ側を導く側にあったし、黒曜編どころか全巻通して活躍しなかったことはない。しかもほとんどが自分から巻き込まれにいったわけではなくその逆。

 彼らにとって必要な人間の、その身近にいる不審な人物。
 それが私だ。

 排除できるなら排除したいんじゃないかなと思う。でもそれが出来そうにないから困っている。…正直そんなところなんじゃないだろうか。彼の存在には何だかんだ守られてるなあとしみじみとしてしまうね、ホント。

「…そこまで察してもらえるとこちらとしても助かる話だが」

 聞いた内容は、あながち間違いではなかったらしい。
 苦く笑ったディーノさんは、だけどそれから表情を引きしめた。

「明日、ここへ迎えを寄越す。それで今の話をもう一度アイツらに聞かせてやって欲しい」
「…どうなるかはその人たち次第ってことですね」
「そういうことだな」

 誰に話すことになるのだろう。この場合まさかの九代目とか? それかツナのお父さんとか。なんだかんだ間に入ってきそうだもんなあ。
 難しい話になるのは嫌だなあと思う反面、とりあえずディーノさん判断ではクリアしたということにホッとする。……痛い思いをすることがないといいな。あと、できればすぐにここへ帰ってこれたらいいなあ。
 なんて、呑気なことを考えているうちにディーノさんの用事は今度こそ済んだようだった。難しい顔をしているのは相変わらずだけど彼は問題解決と言うよりはただ私側の話を聞いて、それから今のことを伝えに来ただけだったのかもしれない。帰ろうとする気配を感じて、あ、しまった、と私も慌てて声をかける。

「あの、今更ですけどお茶でも飲んで帰ります?」

 来客なのにお茶のひとつさえ用意していなかったのは失礼極まりない。大人の対応としてもあんまり良くなかった。座ってもらって早速話を切り出してきた彼に釣られた私も私だけど。…冷たい麦茶かインスタントコーヒーしかないけど出さないよりはマシだろうか。
 そう聞くとディーノさんは一度動きを止め、不思議そうに首を傾げる。何を言われているか分からないと言った感じだった。…あれ、変なこと言ったかな? それともイタリアの人にそういう習慣はないのだろうか。

「お前はもっとオレを警戒すべきだろ」

 …ああ、そういうことね。
 どうやら脳天気な日本人と呆れられただけのようだった。まあ無事に済んだことだしそもそも私は平穏な日々の中で生きてきた一般人だ。笑われようが何されようがこの感覚だけは持ち続けたいところ。それに、

「貴方はそんなことする人じゃないでしょう?」

 だってディーノさんだし。…とは、さすがにここでは言いませんけど。
 そちら側が持っている情報よりも上辺だけど私は私で知っている強みがある。ディーノさんがそんな危ない人とは思っていないので大丈夫なんですよ。ちゃんとこういう言葉をかける相手ぐらいは選んでありますからね!
 どういう意味か分かっていないだろう彼の榛色の美しい瞳がキョトンと丸くなる。それからふ、と笑われ今度は少しだけ楽しそうな是の言葉を聞いた。



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