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 基本的にヴァリアーで料理の腕を振るうのはルッスーリアだ。
 もちろん昔にはシェフも雇ってはいたのだがいつの間にやら襲撃や、ボスであるXANXUSの気に召さなかった料理の提供の所為で物理的に首が飛んだ者もいる。
 現在絶賛任務中のスクアーロに作らせればただ焼くだけの男の料理になるし、ベルに包丁を使わせてロクなことにはならないしレヴィには食材を触らせたくもないし、マーモンには身体の大きさ上色々と不便なものもある。
 人には向き不向きがあるということは重々承知しているし、別に料理を作るのが苦痛というわけでもなく寧ろ好きな部類だった。ただ、少しだけ贅沢を言ってもいいのであればたまには誰かが手伝ってくれたりしたら…というそれぐらいなわけで。

「可愛らしいお手伝いさんだこと」

 ピンク地に大きな黒いカエルのアップリケがついてあるヒラヒラとしたエプロンをつけたナツがルッスーリアの横で楽しそうに見上げていた。どうやらこれを用意したのはマーモンらしい。
 好奇心旺盛なベルがナツを気に入った…というよりは妹分として可愛がっているのは直ぐに分かったがまさかマーモンまでが彼女に何かを無償で与えるぐらい何かを思ったということが一番意外ではある。絵面にしてもたいへん、微笑ましい。

「るっす、私何したらいーい?」
「そうねぇ…ナツちゃんは何が食べたい?」
「ハンバーグ!」

 食事の面で少しだけ気をつけなければならないことといえば勿論XANXUSの好きなものを必ず含ませなければならないことだ。
 ハンバーグだと残念ながら彼の好きな肉の部類には入れてもらえなさそうなのでハンバーグと肉を別々で出さなければならないだろう。それにしても可愛らしい選択にルッスーリアも久々に楽しめそうな気がしてきた。何が作ろうかと悩むことはあっても、何が食べたいと聞いてロクな答えが返ってきた試しがないのだ。

「じゃあ1品目はハンバーグにしようかしら。あと、嫌いなものはある?好き嫌いはあんまりしてほしくないんだけどね」
「うーん…嫌いなものは特にないけど、ニンニクは痒くなるかも」
「アレルギーなのかしら?分かったわ。ガーリック系は避けておきましょう」

 わーい!と喜ぶナツを横目に今後のメニューにニンニク系は避けることを脳内でメモをする。痒くなるということはナツの好き嫌いの問題ではない。そうであるのならば仕方ない。別々に作ればいいだけのことだし、所詮子供のナツが食べる量なんてそこまで多くはないのだ。
 それにこうやって人のことを考えながら作るほうが断然楽しいし、面白いし、作り甲斐があるというものだ。

「るっすはお母さんみたいだなあ」

 じゅうじゅうとハンバーグの焼ける音。お子様メニューがしっかりとルッスーリアの脳内で描かれており、野菜をナツ専用のプレートに盛っている最中に彼女の呟き。

「…ナツちゃんのお母さんはどんな人なの?」
「んーとね、美人だけどね、怒ると鬼だったなあ」

 思い出したのか身をぶるりと震わせたナツに対し、そういえば彼女は家族から半ば捨てられたことと思い出しルッスーリアはナツの頭を撫でた。
 ヴァリアーに所属と同時に殆どの人間は家族との縁を切ることになる。別に切れと命じられている訳ではないが命のやり取りをするこの機関はあまりにも死と隣合わせである故にやはりそういう選択をする者が多い。ベルのように身辺の人間を殺してからやって来るのは稀である。
 しかしこの子どもは雲雀ナツ。雲雀恭弥と直接の親子ではないようだがそれでも戦闘が出来るようにも到底見えないしルッスーリアの料理の手伝いをするその手が武器を握るようにも思えなかった。どういう経緯であるかは聞かされていないがよほどの決断であったのだろう。こんな場に一人送られ心細いと感じないわけがない。家族を思わないわけがない。そんなルッスーリアの思惑通り、ナツは楽しげに家族を紹介する。

「あとおにいちゃんもいるの。優しいんだよ」
「いくつなの?ナツちゃんと同じぐらい可愛いのかしらあ」
「ひゃく…えーっと…たしか、にじゅっさい!この前は誕生日でね、みんなでお祝いをしてね、」

 数字は苦手らしい。まだしばらくこのヴァリアーの屋敷に居るのであれば少し勉強もつけてあげましょう。ルッスーリアはそう何とはなしに思った。


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