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ナツがヴァリアーへとやってきた翌朝、ベルの部屋のソファで身を丸くして寝ている子供を見てどうしたものだかとベルは改めて考えていた。
任務に連れていけ、だの武器の扱い方を教えろ、だの具体的な命令を出された方が遥かにマシだ。
マーモンは別として自分より年下がやって来たのは初めてのことだし、かといってXANXUSから許しを得ているといっても何もしていないこの子供をサボテンにしてしまうのも流石に憚れたし何よりコレの持ち主はあの雲雀恭弥だ。しばらく会ってはいないがどうせ相変わらず戦闘狂っぷりを発揮しているに違いない。
それに加え今まで妹や弟という存在は彼の中には無かったし扱いに困っていたというのが一番のところだった。
「…ぅ」
昨日は否定したがもしかするとこの子供は本当に気配に鋭いのかもしれない。
今も恐らくベルの視線か殺気か、どちらかに反応して身じろいだ。確かにそこだけをみれば彼女は雲雀の親戚というべきなのか。
「はよ」
「…べる?」
ソファに寝かされたとしても何も文句一つ言わない辺り、そういう風に躾けられていたのだろうか。それともあの鳥籠よりはマシだと思っているのだろうか。
ナツは目を擦りながら起き上がると目の前にベルがいる事に少しだけ驚いた様子を見せたがその場に正座すると「おはようございます」と礼儀正しく挨拶をした。
見れば見るほどただの子供だ。どうして昨日は面白くなりそうだと思ったのだろうか。まじまじと見られてキョトンとしたナツは暫くベルを見返していたがやがて視線が僅かにあげた。
「王冠、きれいだね」
「しししっ俺王子だからな」
「王子さまなんだ。すごいね!」
童話ぐらいは読んだことがあるのだろうか。じゃあお姫様もどこかにいるのかなあ、なんてきらきらと目を輝かせたナツを見て初めて年相応の表情を見た気がする。
黒い髪に黒の瞳。白くふっくらとした頬はまだまだ子供のソレでマーモンの頬と比べても遜色ないように見えた。もっともマーモンの頬で遊ぼうものならば金額を請求されるかとんでもない幻覚を見せられるかどちらかになるのだったが。
何気なく手を伸ばしふわふわとその頬で遊びながらもナツはお姫様、というものに想像を膨らませているらしい。
「どんなお姫様かなあ」
「巨乳で美人でキンパがいいなー俺」
「赤色が似合う人がいいよね」
「…何で赤?」
どんな童話を見てきたのだろうか。
そのまま次の言葉を促すとナツは笑みを浮かべたままその答えを出した。
「だってべるから血の匂いいーっぱいするんだもん。やっぱり隣にいる人もそれに似合った方が良いかなって」
「…お前戦えんの?」
血の匂い、なんて物騒な言葉に思わず口角を上げる。これはさすが雲雀恭弥の血筋というべきなのだろうか。昨夜は殺しもしていないし、それどころか血を見る任務なんてここ数日はなかったというのにこの身にこびり付いているそれに気が付いたというのか。
その匂いに、敏感になっているというのだろうか。
だからこそのその質問だった。もしも少しでも戦えるようならばサボテン直前まで遊んでやっても良い。
「う?あ、爪と歯!いっぱいたたかえるよ!」
いーっと歯を出すナツはやはり子供だった。
確かにこの子供の身体の中では一番武器に成り得そうなものではあったがもちろんベルが求めている答えではなく、つまり戦うことなんて全く出来ることもないということであり。聞いたオレが馬鹿だった、と一人で呟いたが勿論誰にも聞き取れるわけもない。
ナツはソファから降りるとしゃがみこむベルに対し首元に擦り寄り、嬉しそうに声をあげた。
「べるっていい匂いするね。皆の中でいちばんすきだなあ」
「…変なヤツ」
でもまあ気に入ったからいいか、なんて思わされたあたりこの子供はやはり普通ではないのかもしれない。
「お前今日から王子のベッド使っていいぜ」
「えっ!いいの?」
「…スタイルの良い姉ちゃんなら欲しかったんだけどな」
残念ながら日本人だろうナツに急激な成長なんて求める方が酷だ。遠慮なく上から下まで見たところできっと将来自分の好みになる体型にならないなんてすぐに想像もついた。しばらくはこのほっぺたで我慢するつもりである。
「私もキョニューになる!」
「ナツは別にいらね。お前にはイモートってポジションくれてやっから。しししっ」