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「おい、ボンゴレの本部から大荷物が届いたぞ」
「何だその形」

 突然の贈り物がやってきたのは現在ボンゴレのボスである沢田たちも寄り付かないはずの、XANXUSの居城であり幹部達の住まうヴァリアー本部だ。
 不思議なことに配達した人間は見当たらず、任務から帰った雷撃隊がそれを見つけ談話室にいた幹部の面々へと報告した。本来ならばスクアーロだのXANXUSに指示を仰ぐところだったがサル山のボス猿へ、と挑発的な言葉とは裏腹に綺麗な文字で送付されたその包みの贈り主は意外な人物であった為すぐさまその包装を運ばせたがあまりの大きさにベルが唖然とした。
 いつかのゴーラ・モスカを彷彿とさせる大きさで置いてあるだけでなかなか威圧感がある。

「しかもエースくんからって何だろなー、珍しー」
「品名にナツって書いてあるが日本の土産か?」

 返品不可、生モノ注意と貼られている。
 日本が好きなベルは興味津々だったが包みを開けるとおどろおどろしい札を貼った箱が姿を現し「悪趣味」と一言正直な言葉を漏らした。

「ジャパニーズ幽霊でも入ってんの?」
「そんなバカなことあるわけないだろ」
「あっちってオボンって行事あんだろ、今。もしかしたらもしかしてかもなー」

 その札を剥がす作業は面倒臭い様子でナイフでざっくりと切り始めた。因みにその札というのはどれもが魔除けのソレで1枚につき結構な値段がかかっているのだが勿論彼らにそれを知る由はなく。
 ナイフを刺すとすぐにそれは姿を現した。大きいそれは鳥籠を模したものだった。
その籠自身に何か罠があるわけでもない。ただ銀製の鳥籠は中身が出ないようにしているだけのただの檻に過ぎない。
 マーモンの見立てでは別に幻術等がかかっているわけでもないという。では、これは一体。

「…子供?」

 全ての包装が外され中身がようやく顔を出す。
 大人が一人二人入れそうな鳥籠の中で丸くなって寝ている子供を見て誰もが唖然としながら、あの雲雀恭弥はこういう趣味だったのかと冷や汗が流れたのだった。


 突然差し込む日が眩しかったのか、それとも人の気配に気が付いたのか子供は身じろぎすると薄く目を開いた。いやこんな子供がそんなことに気がつく訳がないだろう。ベルのような幼い頃から天賦の才が無い限りは。
 何せベルがヴァリアーに入隊したあの当時の姿と比べてみても更に幼い子供だ。そんな彼女を鳥籠ごと取り囲むのはベルにマーモンにルッスーリアにレヴィ。談話室へと持ち込まれた鳥籠は丁度部屋の真ん中へと置かれている。
 あまりの面々に囲まれたからだろうか、一瞬子供は不安げな様子を見せたがベルが片膝をついて子供の視線に合わせその銀の檻に触れながら「よう」と声をかけると慌ててその場に座り込みホッと安心した様子を見せた。

「こんにちは。雲雀、ナツです」

 無邪気だと後ろで鼻血を出したタラコ唇、早速ノックアウト。あまり見せられないものだとルッスーリアが足を持って窓から投げ捨て退場させた。
 おっかなびっくりの表情でレヴィの様子を見送ったナツの態度は仕方ないだろう。

 しかし雲雀ナツとは。
 あまり男女の関係を送ってきていたとは言えないあの戦闘狂の雲雀恭弥の子供なのだろうか。話している言語や色彩から日本人だと分かるしどうにも雲雀に似ていないとは言い切れないがどう逆算してもかなり早い時に父親になった計算となってしまう。

「あらあ、賢い子ね。ナツ君…ナツちゃん?」
「おんなです!」
「そう、ナツちゃんなのね。可愛いわぁ」

 流石と言うべきかルッスーリアの優しい雰囲気に少し緊張が解れた様子。
 檻の真ん中から少し寄ってベルとルッスーリアの前にちょこんと座った。

「お前、エース君のガキ?」
「…えーす?」
「雲雀きょーや」
「ああ、恭弥さんは私の」

 雲雀の名前が出て嬉しそうに声をあげようとしたが談話室にXANXUSが入ってきたのは次の瞬間だった。
 各々浮かべていた笑みは引っ込み、彼の背負う暗いオーラと威圧感に黙って鳥籠から離れる。…大層、機嫌が悪そうだ。ちらりとナツの方を見ても大して驚いた様子もない辺りもしかすると事前に連絡が入っていたのかもしれない。

「お前がナツか」
「はい」

 子供というのは大人の機嫌等に敏感だと聞くがやはりそれは自分の親限定なのだろうか。
 きょとんとした顔を浮かべながら自分の名前を呼ばれたことによりナツは嬉しそうに返事をする。

「え、ちょっボス!」

 突然光を掌に集め力を振るうまでの時間はあまりにも短かった。ルッスーリアが静止の声をかけるが間に合うことはない。
 こんな至近距離で、こんな子供に堂々とあの力を振るうとは。えげつねえ、と横で漏らすのはベルだ。恐らく死体も残らないだろう。しゅうしゅう、と彼の光の威力が物語る、辺りを覆う煙。

「…びっくり、したあ」

 しかし煙の向こうから聞こえる声に全員が目を見張る。
 子供は無事だった。何事かと皆に緊張が走るが鳥籠自体に傷が見当たらないことに気付く。恐らく今のは彼女の力ではなく単純に鳥籠が彼女を守ったのだろう。余程頑丈と見える。

 XANXUSの力を間近で受け、目を丸くさせた子供は口を開いたまま彼を見上げる。それが気に食わなかったのだろうかXANXUSはおもむろに鳥籠を蹴りあげ、その衝撃で中にいるナツが後ろにころりと転がり後頭部をしたたかぶつけた。
 鳥籠の中で身体を丸くしながら無抵抗で痛みに悶える子供は見ていてあまり気持ちのいいものではない。

「ベル、このガキはお前が見ろ」
「え、は、」
「面倒臭くなれば殺して構わねぇ。任務から帰ってきたらカス鮫に任せてもいい。どうせこいつは捨て子らしい。雲雀恭弥から許可は出ている」

 その言葉に子供はどう思うだろう。雲雀の子供ではないとは何となく分かったが捨てられてしまったと、真正面から聞けば泣いたりショックを受けたりしないだろうか。ショックを受けるぐらいならまだいい、だが泣いたりすると今の現状ではちょっと面倒だなとベルは思った。ここの連中は荒くれ者ばかりだし、何よりXANXUSは煩いのを好まない。
 ちらりとベルがXANXUSを視界に入れながらナツを見ると、ベルの思惑は大きく外れ身体を丸めながら諦めたかのようにハァと溜息を漏らした姿が見えて思わず笑みを浮かべた。
 そういえばこの子供、痛い、という言葉を発することもなければ自分達の誰一人に対しても恐怖の表情を浮かべた様子もないことに気付く。

 …このガキ結構面白そう。

「Si,capo」


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