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しり。


重みを感じてふ、と浮上する意識。目をつぶっている所為か神経は余計過敏になっているらしい。
私の上に圧し掛かっているものは無機物なものではなく意志を持ってごそごそと動く様子がわかって、さすがに連日連夜の任務で疲れていたとはいえここまで他人に接触を許してしまうだなんて幹部失格の由々しき事態であると頭を抱えたくもなった。

いや、自分の失態を悔やむのは後回しにして先に今のこの状態をどうにかしなければ。
まだ私が起きたと相手に悟らせてはならない、とりあえず今何が起こっているのかすぐに把握しなければと思いながら枕の下に置いてある銃の存在と起き上がったと同時にそれを使い相手を威嚇するまで順序をゆっくりと一から十まで脳内でシミュレーション。その動きは果たして今起き上がりの自分が実戦できるものなのか、自分の動きを過大評価してしまってやいないか再度調整。差異は認められない。

もしかしたらこの屋敷内で死人が出る事態になるかもしれないが自分の生命の安全が最優先事項で、この前買い換えたばかりの真っ白なシーツが赤で染まることが残念でならない。結構高かったうえにフルオーダーだったのだ。


さて心の準備は整った。お気に入りのシーツに離別する覚悟もできた。
チャンスは一回、多少の怪我は仕方ないとして出来ることならば自分の商売道具である手足だけはどうにか死守しておきたいところ。ところでさっきから私の上に圧し掛かったそれはまったく身動きをすることがないというのに膝の上に遠慮なく乗っているものだからそろそろ痺れてきた。これは寝ている振りをしているとしてもそろそろ目を覚ましておかなければ不審がられるに違いない。―――枕の下、銃、発砲…は臨機応変に。OK、大丈夫。


ぱちり。

ゆっくり起き上がったら相手に準備の時間を与えてしまう。油断させるには一気に動くしかないことなんて今までの経験上よく分かっていて、シミュレーション通り、枕の下に置いてある銃を右手で取りながら手早く安全装置を外し相手に向けながら自身の上半身を起こす。その時間、脳内計算通り3秒。我ながら完璧な時間に惚れ惚れしてしまう。
この数秒で敵はどういう反応をしてくるだろうか。つい格好つけて視線は強くしているのに口元だけ笑みを浮かべてちぐはぐな表情を浮かべているに違いない。


「覚悟し」

相手を威嚇するための言葉、『覚悟しなさい』。
あまり使うこともない台詞だし格好よくキメてやろうとおもったのに途中から言葉は急速に力を失っていった。
月明かりに仄かに照らされた室内、私が銃を遠慮なく突きつけた相手はよく見知った顔だったのだ。


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