05



 違和感に気付いたのは買い物から帰ってからのことだ。
 シャルレについて来ていたボディーガードは彼女の休憩している時間帯も近くで身を隠しながら彼女を張っている訳だが、その後シャルレは堂々とスクアーロと共にそのアパートメントを出て、問題なくスーパーへと買い物へ出歩いたのだ。そこにボディーガードがついてくる様子はなくその持ち場を動くことも無く2人はまたスーパーの袋を提げて戻ってきたという訳だが。
 普通であればスクアーロと行動を共にしている時点で何かアクションがあっても可笑しくは無いし、彼らの動きはどうも変だ。まるでシャルレがずっと部屋に居ると思い込んでいるかのごとく彼らはずっと部屋の外から見ているがその覗き込んでいる部屋だって隣の空き部屋である。

「…どういう事だあ?」
「うちのファミリーに所属するにはね、ひとつ条件があるんですよ」

 手際よく料理した彼女はスクアーロに酒を注ぐと自分は水を口に運ぶ。
 元々用意してあったあたり酒は飲めないこともなさそうだがあくまでも彼女は現在、勤務中の休憩時間だと言ったところだろう。その真面目な勤務態度は自分の幹部に見せてやりたいとふと思う。

 未だ状況を把握できていないスクアーロに対し、念願のフリッタータを口に運びながらシャルレは自分の前に手をかざした。何事かとその手をぼんやりと見たスクアーロは瞠目した。彼女の白く細い中指に、突如としてリングが現れたのだ。
 驚きに手首を掴む。
 そのリングにスクアーロは見覚えがあった。普通のリングらしからぬ、人の恐怖した顔を模したかのようなおどろおどろしいそれは、

「オッサ・インプレッショーネ…か?」
「流石はスクアーロさん。よくご存知で」

 わずかに感心した様子を見せたシャルレはするりと指輪を外しあろうことかスクアーロの手のひらに乗せる。

 ボンゴレリングには到底及ばないが精製度の高い霧属性最高を誇るリングだ。その知識のみはあったがしかしリングの行方は依然不明だった。何しろ曰く付きの代物であると同時にボンゴレリングのような世界を揺るがしかねないリングを除き、彼のリングは最高峰に近いのだから。
 使えばたちまち破格の力を、売れば億万長者も夢ではない、そんなリングをなぜ彼女が。

 抱いた不信感は指先にまで表れてしまったのだろう、シャルレは一瞬眉根を寄せて未だ手首をつかんだままのスクアーロの手に空いた手を乗せてポンポンとたたく。
「痛いです」と困ったように主張する彼女に初めて自分がギリギリと締めていたことに気付き慌てて離した。
 彼女の白い手首にはくっきりと彼の手跡がついている。

「…悪い」
「いえ、私も説明不足ですから」

 でも痛いのは勘弁してくださいねと微笑むシャルレに、そしてまるで自分のものかと主張にもとれるその白い手につけられた自分の手跡に何故だか疼くような乾くような、そんな気分に浮かされていた。





「まあ、これ、模造品なんですけどね」
「…は」

 私の簡潔な答えに対しぽかんとするスクアーロさんの姿を見てようやく手首の痛みも落ち着いた気がする。疑いの眼差しっていうのはいつになっても心臓がじくりと痛むもので、まあ彼のことだからこのリングの需要だとか価値だとか分かってるんじゃないかなあ。
 ボスがもしこれは本物だったら俺達は億万長者だーとか、毎日肉生活だーとか、お前みたいな貧相な子じゃなくてもっとバイーンでボイーンな有能秘書雇うわ!だとか色々言ってたこともついでに思い出したら少し腹が立ってきた。やっぱり帰ったらボスにこの報酬金は渡さないんだ。絶対に。

「ヘルリングシリーズが出来上がる前の、いわゆる試作品らしいんですよコレ。精製度ランクは測ったこともないので分からないですがね」

 リングはある程度の精製度がなければ、使用者の炎に負けて壊れることが多々ある。その精製度とは頑丈度に置き換えてもいい。
 そんなリングが何故私の指にあるかというと、この前の任務で貰ったのだ。

 くれたのは綺麗な男の人だった気がする。そんな人に指輪なんて貰ったとなればそりゃ興奮もしたけれどいざ嵌められた指輪を見ればおどろおどろしいことこの上ないし、模造品と言われたけどヘルリングは意志を持ち魂を食わせると更なる力を持つとか言われる曰く付きの指輪。そんなリングを模しているものを身につけた私も呪われるんじゃないかと皆が不安がったけど、意外や意外この指輪は私を割と守ってくれている。そして驚くことにこの指輪、私を持ち主と認めてくれたのか私の意志以外で外れることはないという代物。間違えて落とすこともない。

 私は確かに術士の端くれで、そんなに力は強いわけじゃない。けどこのリングはそんな私の微々たる力をそれなりに上げてくれる。

「このリングで幻術を行使し、私がまるでアパートメントの中にいるように彼らに仕向けたって言うのが種明かしです」
「……お前、やっぱり術士向けだなあ」
「褒められてます?確かに任務ではありますが少しぐらいは息抜きを許されてもいいと思うんですよ」

 報酬金はたんまりと貰えるけどめんどくさいことこの上ないし。本当はこんな任務とっとと投げ出してボスのところに戻りたいし。でも途中放棄は絶対に怒られるし。ボス怒ったら怖いし。
 まあでも、それでもね。

「そのおかげでこんな形でスクアーロさんにもお会い出来たし、割とこのリングって私にとっては幸運のお守りなんじゃないかなーって」

 思ったり思わなかったり。
 そういうとスクアーロさんはぽかんとした後、豪快に笑って私の頭をこれでもかと強く撫で付けた。
 いやあ美人ってほんと何しても許されるってほんとだなあ。今日頭洗いたくないや。洗うけどさ。


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