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 スクアーロの護衛時間は夕方、そしてシャルレのいわゆる休憩時間は護衛時間を過ぎて1時間程の後だった。
 普段はその後もシャルレに気付かれぬよう静かに雇い主のボディーガードがついていたそうだがそれに気付かぬほど素人ではない。煩わしくなったシャルレがそれを振り切り逃げた先で襲われ、そして昨日の事件が起きたのだという。

「いやはや私もあれから怒られたんでね。これでも反省しているんですよ」

 一応ね、といったシャルレは今日はきっちりと守られながらここまで歩み、整った顔が大層歪んでいたことを先回りしていたスクアーロは知っている。不機嫌を隠さずに不貞腐れた表情を浮かべる本人にはとても言えないが、笑いを堪えることができなかった。
 合流した場所はシャルレが休憩のためにと使っている小さなアパートメントだった。身代わりの依頼を受けているという割りに色々と甘すぎるのではないかと首を傾げたが確かにシャルレから戦士の匂いはしない。その道のプロでもないような非戦闘員が1ヶ月も束縛されミスを犯すぐらいなら多少の息抜きを認めたというところなのだろうか。

「スクアーロさんなかなか良い格好ですね」
「流石に何処でも隊服ってのは不味いからなぁ」

 とは言え私服風の隊服であることには変わりない。対するシャルレは昨日同様のTシャツにジーンズという出で立ちで此方は帽子を目深に被っているため銀の髪が見えることはない。
 化粧も粗方落とし眼鏡までかけてあるというのにこの女はどうにも目を引くような気がする。もっとも彼女はそんなことを気にかけている様子は微塵もなかったが。
 ふああと欠伸を大きな欠伸を隠しもせず大きく伸びをすると玄関へと歩む。

「買出しへ行ってくるので、スクアーロさんはそこでくつろいでいてくださいな」
「いや、俺も行く」
「え、スーパーですよ?」
「…嫌なのかあ?」

 やや驚いたように目を開いたシャルレは「ええと」と言葉を捜しているようだったが、

「意外とボンゴレっていっても普通なんですね」

 彼女はどうやら自分をお堅いところの人間と勘違いしていたらしい。
 歯に衣着せぬ言い方こそシャルレの本音なのだろうと思うと昨日までのあの演技に騙されていた自分がどうにも馬鹿らしく感じ声を出して笑ったが肝心の本人は頭上にはてなマークを浮かべただけだった。

● ● ●


 シャルレのよく利用するスーパーは徒歩10分程のところにあった。
 その間も辺りに気を配るがどうにも敵の気配は無い。

「そんな四六時中狙われてるわけじゃないんですよ、一応ね。あ、スクアーロさんそれとってください」
「おら。で、今までに狙われた事はあるのか?」
「あ、ども。うーん…どちらかというと屋敷内部が多かったんです。突然銃弾が飛んできたりとか、爆発物が放り投げこまれたりとか。寧ろ私が外に出て襲われたのは昨日が初めてなぐらいで」

 犯人の特定ぐらい訳も無さそうな規模のファミリーだが彼女の命を狙う輩が一枚上手なのだろうか。こういうことならば昨日倒した奴らの素性を調べあげておくべきだったのだと今更ながらに後悔する。

 そんな物騒な話をしながらも2人は着実に買い物を進めていた。時にスクアーロを使うシャルレはなかなか豪胆な性格の持ち主でもあるようだがやはり依頼を受けた人間同士であっても下の立場―ボンゴレはやはり別格なのだ―であるシャルレが一線を置いて接するその姿は好ましい。
 真っ直ぐ向いて話をするシャルレを良い事にスクアーロは隣を歩く彼女をちらりと見た。昼間は結い上げられていたとは言え自分と同じ色彩の髪の毛に隠されていた白いうなじはスクアーロがひとたび力を込めれば折れそうなぐらい細い。
 そして化粧を落とした彼女の顔は幾分かさっぱりとしていたが髪と同色の睫毛に縁取られた灰色の双眸はそんな装飾を物ともせず輝いている。

 困った事に油断すれば触れたくなるような、儚げで危うげな、そんな雰囲気を持つ女だった。思わず手がシャルレに対して伸びたがその柔らかそうな肌に到達する前に不思議そうな表情を浮かべた彼女がスクアーロを見上げ、動きが止まる。

「スクアーロさん?」
「…あ゛あ、そこの酒が美味そうだなと思ってなあ」
「……それケチャップですよ」

 まさか馬鹿正直に理由等言える筈もなくどうにか誤魔化そうとしたもそれすら情けなく失敗に終えた。それでも「変わった人ですねえ」と楽しげに口元に笑みを浮かべたシャルレが見れたので良しと思えたあたり、どうも自分は重傷らしい。


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