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 檻はまっすぐと舞台へと移動し、そして端から舞台の袖へと進むための細い道をゆっくりと動いていた。檻だけでこれ何キロあるかわからないけどなかなか重そうな音立ててるんだよねコレ。後ろにいる人間はたった一人だし細身だっていうのに案外力持ちなんだなあ。
 ……あ、私そこまで太くないと信じているんだけどこのデブとか思われてたらどうしよう…いやだなあ…ちょっとダイエットしておけばよかったかな。何だかんだちゃっかり毎日しっかりご飯食べてたからドレスがちょっとキツいのは内緒の話だ。

 後ろをチラリ。
 雇われている人間なのかこのフードをかぶった男が自分のファミリーから連れてきた人間なのか判断もできない。けど私の、あの男に対する悪口やら独り言なんかはずっと無視してくれているからある意味楽っちゃ楽なのかもしれない。
 舞台の袖、裏側。
 人目が無いここが、私の最後、息のつける場所。

「くだらない悲劇はこれで終える」

 さっきのグラスが飛んでくるのも想定済み。
 どうせならヘルリングのご紹介でもしてあげようと綺麗に幻術をかけてみたけどこれが思ったより好評だったらしい。…私情報屋やめて手品師したほうが儲かったような気もするよホント。ま、種も仕掛けもないからバレるところにはバレるだろうけどさ。

 自分の衣服が乱れていないか最終確認。
 血が分かりやすいようにと誂えられた純白のドレスはできることなら結婚するときに身につけたかったなーなんて思うと…ああ恋人とか作っておくべきだったなとか良く分からない方向に後悔した。あの男くたばれ。
 
 それでも、スクアーロさんには最後まで迷惑をかけてしまったな。それだけが心残りで仕方がない。
 彼はとても自由な人。こんな汚い泥の世界より、広い海で自由に泳いでいける人だ。そんな彼を少しでも縛ってしまった私に責がある。そう思っていつものように笑ってみたけれどどうにも自分の表情というものは私の意志に沿ってもくれなかったようで余計にスクアーロさんの眉間にシワを寄せてしまった気がする。死体、できるだけ綺麗だったらいいなぁ。ぐちゃぐちゃはちょっと…好きな人に見られるのはいただけないな。万が一解剖を考えてご飯やっぱり抜いた方が良かったのかもしれない。

「……最期のあがきでさ、とりあえず阿鼻叫喚地獄絵図な幻術でもやりたいんだけどいまいち想像できないんだよね」

 後ろの人に聞こえても構わなかった。どうせ私の願望だ。
 どうせ私に出来ることなんて本当限られているし、力じゃ絶対に敵わないし、恐らくあの男のことだから術士なんて沢山雇っているに違いない。
 私が余計なことをしようとおもえばすぐに取り押さえられるだろう。

 ”CDI”だってもう使えない。

 こちらから全て切ってしまっている状態だ、繋ぎ直すのは双方の意思確認の下の再契約が必要なわけで、だからこそクラリッサの秘密の漏洩は防げた。残された時間が僅かしかない私はもう、やれるだけのことはやった。
 あの子達はそろそろ逃げ出せているだろうか。けれど無事でさえいてくれたら、…もうそれでいい。ご武運を。

「そうだ、スプラッターな絵でも皆に見せてしばらく悪夢しか見えないようにしてやろうかな。こう首の断面図見せたりさ、それ拡大してスクリーン投影しちゃうとかさ」
「面白そうなこと、企んでいるね」
「でしょう。こんな生命を賭けたショーだ、お金もちゃんと貰わないと割りに合……」

 少し高めの声がいつの間にか私の独り言に参加してきていた。
 後ろで檻を押してくれた人の声ではない。あれ、でもそれ以外に誰も、いないはずなのに。

 突然の声に、いつのまにか背後に迫っている気配に私は気がつくことができなかった。
 ぐにゃりと歪む空間、そこから出てきたのは、


「………………え?」
イレギュラーによる介入


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