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 久々に熟睡していたみたいだ。
 鳥のさえずりと共に起き上がり慌てて時計を確認すると時間はまだギリギリセーフ。変な体勢で寝てしまったにも関わらずそれでも起きなかった辺り私はとうとう金銭だけじゃ飽き足らず睡眠にまで貪欲になってしまったらしい。
 どうか浮腫んでいませんように。祈りを込めながら洗面台の大きな鏡をちらり。

「うわー…」
『おはようシャルレ』
『どうしたの?』
『…映像を許可する』

 彼らの仕事は何処か少し離れた作業場で行っているらしい。場所は探知を何度か試みたけど厄介なことに何かの術が施されていて近くを特定することすら不可能だった。
 これが金をかけた技術なのだったら是非とも盗んで持って帰りたい。それでも彼らと話せるということは半径数キロ以内ということ。近くにいると分かると安心安心。

 ところでこの我々の”CDI”、リアルタイムでの動画交換は出来ないけれど静止画であれば彼らに送ることが出来る。しかもその映像というのは私が目に焼き付けたものというカメラ不要の素晴らしいこの技術。
 本当は見せたくないけどたまには彼らにもネタを提供してあげよう。
 
 ――案の定奴等はけたたましく笑いやがった。
 そりゃそうだろうよ、自分の腕を枕にしてしまったせいでほっぺたにスクアーロさんからもらったブレスレットの跡がくっきりとついている私の顔なんて酷いに違いない。

『ところでシャルレ、お前そんなの持ってたっけ』
『…もらったのよ』

 ぎゃいぎゃいと脳裏に相手は誰だとか言い始める彼らの元気さに呆れながらも多少安堵する私がいる。
 任務終了まであとわずか。頑張ろうじゃないの、仲間よ。

● ● ●

 午後5時。
 いつも通りの時間帯にやって来たスクアーロさんはいつもと変わらず話して、そして帰っていく。今日は特に何も変わったことがなかった。
 昨夜の件もありどうしたものだかと思っていたけれど仕事は仕事だときちんと割り切れる人だった。ってまあそりゃプロだから当然なんだろうけど、何だかんだ私はこの人に対して偏見だとか持っていたところが大きい。

 いつものように依頼人からの夜のお誘いを丁重に断り、そのままボディーガードを3人後ろについてくるのを確認しながらスーパーへ。この前酒を飲んだものの結局疲れが溜まったせいか時間ぎりぎりまでスクアーロさんの肩で眠ってしまうという大失態はもう犯せない。
 夜のご飯は何にしようかと適当に放り込みボディーガードさんにもこっそりとジュースの差し入れ。本物のボディーガードであればこんなの受け取らないだろうけれど彼らはこの街での傭兵に過ぎず嬉しそうに飲んでくれた。
 本当の事は話せないけれど彼らは本当にいい人達だ。

 ボディーガードにぺこりと礼をするとアパートメントの中へ。歩きながら他に気配がないことを確認し、リングに炎を灯していつものように私がいる部屋が違った場所に見えるようにカモフラージュ。彼らの事はそこそこに信用は出来るけど一応念の為、だ。

 いつもの部屋、扉に手を伸ばすと自動的に開く。
 おや? と思う間もなくそのまま中へと引きずり込まれた。突然遮られる視界。圧迫感と、暗闇。

「…こんばんは?」
「お゛う」

 慣れとは恐ろしい。スクアーロさんの気配だと分かれば力を抜くクセができていた。多分これが知らない人のモノであれば応戦体勢ぐらいは取っていたのだろうけど彼と分かればもう初めから降参モード。
 …とはいえ、いきなりのことに状況がいまいち把握出来ない。スクアーロさんに抱きしめられているらしい。ぎゅうぎゅうと割とマジで力強く締められていて身動きは全く取れない。

(苦し…いんだけど、なあ)

 私こんなことされたこと過去にあったっけって彼と一緒に過ごすようになった日々を思い返すもそんな事例は見当たらなかった。
 けれどこの言動の理由に思い当たる節がないわけでは、ない。


『お前が好きだ』

 そう言われたのは昨夜の話。忘れるなと言われても無理な話なわけで。
 わざわざ私なんかを心配して夜中やって来て、2階のバルコニーに何でもないように飛び上がり告白しそして厄除け用にとブレスレットを送ってくるその一連の流れは私でなくてもかなり心ときめくものだ。情熱的な人だとは薄々感じてはいたけどまさかここまでとは思ってもみなかった。
 それに、彼は今まで何だかんだ触れてこようとすると私の反応を探るように僅かな隙があったものでそれに勘付いて避けてきたけれどこればっかりは真正面からのもので避けようが無い。…うん、そもそも彼が本気を出そうものならば私なんかが逃げられるわけもないわけで、お遊びじゃなく本気だったと自惚れていいのだろうか。

「…スクアーロさん?」

 顔を上げようにも丁度スクアーロさんの胸元あたりに顔が押し付けられてどうにも身動きは取れない。
 身体をまさぐってくるようであれば引っぱたこうかとも思ったけどそれもなく、ただ強く抱きしめられているだけでどうしたものだかと悩ましい。

 ぐーきゅるきゅると盛大な音が鳴ったのはその時だった。
 …いやいや流石に私じゃない。絶対に、私じゃない。さっきまでお菓子を摘んでいた所為かそこまでおなかもすいていない、筈で。

「…ご飯、作りますね」
「……」

 天下のヴァリアー作戦隊長様も空腹には弱く、そしてこの音を聞かせてしまったことは少し恥ずかしかったらしい。もぞもぞと彼の腕の中で身動きしてようやく離れると私と顔を合わすことなく彼はさっさとリビングの方へと移動してしまった。
 その横顔が僅かに赤くなっているのを見て不覚にも可愛いと思ってしまった…ああ、でも言ったら怒られるだろうから絶対口にしないけど。


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