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「じゃあなぁ、ユーリア」
「……ええ、また明日」

 あの後からスクアーロさんの様子がおかしい。一言一言話す度に私の顔色を伺っているというか、疑っているというか。
 しまったなあ、何か気付かれたのかもしれない。何てったってちょっと不思議な人ではあるけど、あのヴァリアーの作戦隊長様なのだ。私みたいなド素人如きが隠し切れるような相手ではない。あーあ、後であの子達には説教しないと。

『ホント、第三者視点で見ると変な関係だよなあ』
『私もそう思うよまったく』

 目の前のスクアーロさんに笑みを浮かべながら脳内で返事をかえす。私以上に、彼らの目からすると確かに奇妙に見えるに違いないなあと今更ながらに思った。

 ところでスクアーロさんが依頼を受けてユーリア嬢の身代わりである私の護衛をしているというこの件に関して知っている人は誰もいない。そもそも私がユーリア嬢の身代わりをしていることも、他の人間は知らない。
 今私が住んでいる屋敷は依頼人の別荘地のひとつ。用意がいいというかお金に糸目をつけない依頼人はパーティのためにやって来たここで、まさかの少数人数で新規にボディーガードを雇った。

 ――つまり私たちは全員、同じ時期に違う役割を持たされて依頼を受けて集まったというわけだ。
 当然ここで皆初対面なのでユーリアを元々知っている人もいなければ、スクアーロさんが依頼を受けたということも知らなければ、ボディーガード達がこの地域でかき集められたということも自分の立場外のことは知る由もない。

 ボディーガード達は私のことを本物のユーリアだと信じてやまないし、スクアーロさんを依頼人の知人としてユーリアのそばに置いていると信じている。
 スクアーロさんは私のことを本物のユーリアだと信じ、ボディーガードを依頼人が連れてきた昔からのボディーガードと信じている…という体だ。

 対する私はそれを全て知っている。スクアーロさんの件に関しては流石に知らないとまずいだろうということで。
 ボディーガードの件は依頼人から伏せられていたけれど私と共にやって来た術士達から聞いて。ちなみにこの任務を受けてから私は彼らと顔を合わせたことは無い。術士の子達はまだ若いということで裏方を任せたいと言われたのでそれはそれで仕方ないことだし、なにしろ話そうと思えば脳内で話せるのだから問題はなかった。

『これ、もちろん暴露したら俺ら首だよな?』
『物理的にも首が飛びかねないから止めてもらえるとありがたいかな』

 まあざっとした感じだけど私たちはなかなか、奇妙で厄介な契約関係の上に存在していた。
 スクアーロさんには特にバレないこと、死なないこと、そしてパーティの日を終える時までは何としてもユーリアでいること。それが私に課せられた契約と設定。割と最初の方でスクアーロさんにはバラしてしまったけど依頼人にさえ見破られなければそれでいい。
だからこそスクアーロさんには先日そう伝えたというのに何がどうなったのかわからないけど歪んでしまった。

『大人しく口説かれていろよ』

 あの綺麗な顔が近付いてきた時のあの日を思い返すと照れくさいし、逃げるようにボンゴレのボスの名前を出したけどちょっと惜しかったな、なんて思える程度に私は彼を気に入っている。
 だけどそれじゃダメなのだ。分かってる。私たちは互いに依頼を受けた身。ヴァリアーの作戦隊長と一介の小さな情報屋ファミリーの事務員とでは何かもかもが違うのだ。

「…さようなら、スクアーロ様」

 今日は行かない。
 声を出さずに小さく口だけを動かしたそれをスクアーロさんはしっかり分かったらしい。若干驚いたように目を丸くしたけれどそのまま黙って頷くと彼は去っていった。

 夕方5時、スクアーロさん退場。
 扉が閉まるとともにするりと私の腰に手を回す依頼人。

「スクアーロ氏とは仲も良さそうだね、ユーリア」
「…ええ、お父様。彼ってばジョークもお話も、何もかもが上手なのです」

 傍から見れば私達は親子に見えるのだろうかと不思議に思う。
 求められた格好をしているのだから似てもらわなくては困るけど。世の中には本当色んなボスがいるよね、全く。早く私もマイホームに帰りたい。距離があるためもちろんボスに聞こえるわけはないけど私のボスに話しかける。
 今ものすごく事務作業がしたいものです、ボス。湯のみ割ったの謝るから早く帰らせて。

「今夜僕の部屋に来るかい?」
「…いいえ、お父様」
「そうか、それは残念だ」

 耳元で息を吹き掛けられ、いやらしい手つきで私のお尻を触った後、依頼人が背を向けると同時にとんでもない罵声が脳裏に響いてやれやれと私は苦笑いした。これホント依頼人が聞いてたら私たち首飛ぶから。絶対肉声で聞かせられないから。
 うん、大丈夫。私だってコイツ早く不能にならないかなーって思ってるからさ。もぎ取るとか引きちぎるとか怖い事言わないで。


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