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 依頼を受けてから既に2週間以上が経過した。
 相変わらず仕事上がりのスクアーロはシャルレの休憩時間に合わせ例のアパートメントへ押しかけては共に食事をしたり適当に話したりしている日々を送っている。そうなれば日中はユーリア扮するシャルレ、そして夕方になればシャルレ、といったように1日中彼女と話していることになるのだが驚く程それが飽きることはないと感じられている辺り重症は変わりなかった。また、それ以上にこの女は頭が良く同じ話題にならないような話術を用いたり、スクアーロが適当に言った言葉だってよく覚えていたりと流石は情報屋かと思えるようなところが節々に見られ結局深みに嵌まっているのは否めない。

 最近ではユーリアの方だって所々素のようなところが見えてきたりするのもなかなか楽しめる程度に任務は生温く感じていたが、任務を受けた当初に比べるとそれが別にストレスでも苦でもなくなっている。出逢った時のようなシャルレの命を狙っている輩もあれからは一切見当たらない。
 間違いなくシャルレに対して恋慕の情は募っていくばかりだったが別に困ることもなかった。スクアーロにとって彼女は命を狙うターゲット相手ではないのだ。今でこそただ同じ依頼人から同様の依頼を受けた人間である同士なだけで、どちらかといえば味方に近い。
そしてシャルレ自身だって触れることは許しはしないがスクアーロがここへ通うことに対して「暇なんですね」と毒を吐くことはあれ嫌がった素振りも見せない辺りまだ勝機はあると思っている。

 だがそんな浮ついたことを考えている一方で、今日は何か様子が可笑しかったことをスクアーロは見逃さなかった。
 突然のことだ。
 今日もいつものように話をしている最中で、彼女の頬がぴくり、と引きつったかと思うとその後ティーカップに口をつける時間が長く、あまり手を伸ばさない菓子類にもよく手を伸ばし口を休めることをしなかった。
 いつもはゆっくりとした動作をするシャルレがそこまで空腹になっていたとも考えられ難い。何が彼女を落ち着きなくさせてしまったのか。
 視線が揺らぎどこか天井を見た時もそうだ。流石にそれに関してはスクアーロも同様に視線を走らせてみたが誰かがいるようにも見えない。

「”ユーリア”?」

 大丈夫か、という言葉を含みながら彼女へと問いかける。ハッとした表情を浮かべたシャルレは慌てて笑みを取り繕ってスクアーロを見返した。笑みこそ湛えているもののその細い指は強く握り締められ白くなっている。明らかに、どこか様子がおかしい。

「…ふふ、ごめんなさい。昨日少し怖い夢を見てしまったもので」

 あまり眠れなかったんです、と恥ずかしそうに口元を覆うシャルレはどこまで演技なのだろうか。今すぐそれを問いただしたいところだがここで彼女に問うことは自分達の依頼を全て無に帰す可能性だってある。
 彼女の事はまだ何もかもが謎に包まれている。霧の術士であるということも、情報屋ファミリーの一員だということもそれを助長させているのだろう。別に彼女の全てを暴きたいと思っているわけではない。ただ、心配で、ただ、何処と無く消えていきそうなそんな儚さを備え持つシャルレを留めておくにはどうしたらいいのだろうと思うばかりだ。

「何かあれば俺に言え」
「ありがとうございます、スクアーロ様」

 ころころと笑む彼女を見て、今すぐ腕を掴み連れどこかへ去ってしまいたい気に駆られた。確かに彼女の演技は上手い。だが少し、彼女と関わってしまえば理解してしまうものもある。
 グッと堪えたようなそんな表情は、まるで何かを決意したかのようなそれに近かった。


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