amber | ナノ


▼04


「おいボスさ…う゛お゛ぉい!」

 時刻はおおよそ昼前か。
 普段ならば呼ばれるまでXANXUSの前に現れないスクアーロが顔を出したのはもしかして、という嫌な予感とやはり昨夜気を失わせてしまった女に対する罪悪感があった所為だろうか。もしもまさに今行為の最中であったならとドアを開ける前に少しだけ考えはしたがどうか未遂であってくれと祈りを捧げているだなんてXANXUSは知る由もない。

 突然扉を開け部屋に入ってきたスクアーロに対し再度灰皿を投げつけられるも、今度は真正面からということもあり上手く避けたようだ。割れた灰皿を横目で見ながらそれでも尚部屋にあがってくるスクアーロの目に映ったのは布団の上で真赤になりながら正座をしている女の姿で何事かと目を丸くしながらXANXUSを見つめ、
 またXANXUSはやはりこの女はスクアーロに預けるべきだったのだろうかと昨夜の己の判断に対し少しだけ悔いた。

「本当に、お騒がせしました」

 女は一宮響と名乗った。
 ここの宿に備え付けられた浴衣を着用し、とりあえずは寝癖だけはどうにか直したようだが当然ながらその顔に化粧などは施されておらず年齢がいまいち掴めない幼い顔をしていた。

 昨夜の方ですねと少し複雑そうな表情を浮かべながらも布団を片付けXANXUSの部屋であるにも関わらずスクアーロの分まで座布団を敷く。
 何気なく上座にXANXUSを充て、次いでスクアーロ、そして響を下座にと用意しているのだが自分達外国人がその理由が分かっているだろうとは知らないだろうし、何より彼女は無意識だろう。大人しく座ったXANXUSを見ながらスクアーロも座り心地の悪くない座布団へと腰を下ろす。

「…いや、俺こそ悪かったなぁ。俺はスクアーロだ。こっちは俺の上司で、」
「XANXUSだ」

 名前を名乗ることに躊躇いがなかったのは何故だろうか。そういう気分だったのかもしれない。
 ただスクアーロが目を丸くして自分を見返しているのがどうにも気に入らなかった。

 そんなXANXUSの心中など気付くはずもない彼女はゆっくりとした動作でXANXUSさんとスクアーロさんですね、と呟くようにして把握してにっこりと笑みを浮かべた。

「情けないところばかり見せて、ごめんなさい。でも隣人さんがいい人でよかったです。まだ宿泊はされるんですか?」
「ああ」
「そうなんですね。私も三泊四日で隣の部屋なんです」

 そして響は机の上に置かれている時計を見てハッとした表情を浮かべた。どうやらこれから用事でもあるらしい。
 ゆっくりとした所作で、ではこの辺でと立ち上がる。

「XANXUSさん、布団までありがとうございました。どうか風邪を引かれないようにしてくださいね」
「…ああ」

 本当にありがとうございました、ともう一度告げると響は鞄を持って部屋を出た。
 カチャリと小さな音を立てドアが閉まるまでの少しの間、ポカンとさせられたのはスクアーロの方で。どう見ても堅気とは思えないこの2人の男に対して驚くことも怯えることもなく礼を通す辺りはさすがは日本人といったところなのだろうか。いや、それ以上に、もっと驚くべきはXANXUSの対応だ。響の話し方を聞けばどうにも彼女に布団を譲ったように聞こえたのだがこの男にそんな甲斐性があったというのか。
 相変わらず隣で黙りこくるXANXUSの表情からは何も読み取れることは出来ないが…と、女が出ていってから暫くしない間に隣の部屋で「ただいまー」と小さく響の声が聞こえてくる。勿論彼女の声は普通の人間には聞き取れるような音量ではないが何しろ”ヴァリアークオリティ”である。

 しかしその後誰の物音も聞こえぬのだが彼女は1人だったのだろうか。女の一人旅とはまた珍しい。
 否、昨夜の件といい、やはりあの響という女は何処か他の女とは違ったような気もするがそれでも一般人には違いあるまい。

「失礼致します」

 暫くせぬ内に扉を小さく二度、ノックする音が聞こえ二人揃って意識はそちらへと追いやられた。
 昨日は確か女将に五月蝿いと言外に注意された気がする。今は別にそんな事をした覚えはないのだが…XANXUSの視線に対し頷くと扉を開くと女将がにこにことしながらそこに立っていた。その手には大きな荷物が抱えられており、

「…今度は何だぁ?」
「布団を変えていただきたいと一宮様から言われたのですがこちらのお部屋でお間違いないでしょうか?」

 どうやら響の手配したことらしい。
 XANXUSはとうとう耐えられることなくブハッと豪快に笑うと手元においてあった酒を一息に煽る。

 布団一式を抱えながら気品溢れる女将は珍しくも不思議そうな表情を浮かべ、スクアーロもそれに同調し複雑な笑みを浮かべると「此処で間違いない」と彼の代わりに答えたのだった。

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