ファンタジー系で不良受け


‐登場人物紹介‐

■ロルフ(18)|180cm
貧富の差が激しい島のスラムにて育つ。
生きる為なら何でもしてきた為基本的に敵には容赦しないが、ゴロツキのリーダーになってからは情に熱い一面も垣間見えるように。
目付きが鋭く、冷たい印章を与えがちだが、慣れ親しんだ相手には表情豊か。

■ディートフリート・フック(25)|189cm
若くして世界に名を馳せた海賊団船長。
出生は不明だが、海に出た当初はかなり荒んでいたらしい。今現在は世界各地を気ままに冒険中。マリンブルーを探していたのには訳があるようだが…
面倒見の良い兄貴肌。しかしズボラな一面もある。親父臭い。

***

 ロルフは、先月18歳を迎え成人したばかりの青年であった。物心ついた頃には既に孤児院で過ごしていた為、同じような境遇の子供たちと共に、日々街の住人たちからの同情の視線を浴びて、幼いロルフは退屈な毎日を過ごしていた。しかし、同情の視線の中に潜む僅かながらの蔑みに気付いてからは、次第にロルフは街の住人達に暴力を振るうようになる。自分はこうでなくて良かった、自分はコレに比べれば幸福だ。そんな意味を孕んだ視線は、幼い子供の心を傷付け、やがて無差別な憎悪に蝕まれたものにするにはそう時間はかからなかった。
 そして、そんな問題児に成長したロルフが孤児院を脱走したところで、その身を案ずる者など誰一人としていなかったのである。


「誰かに心配して欲しかったのか?」

「んな下らねぇ事望んじゃいねぇよ、ヘドが出る」


 孤児院を脱走して以降、無法地帯となっているスラムへ身を落としたロルフは、そこで生き抜く為に何でもした。強盗や殺人、詐欺や人身売買のよう真似事まで。子供だから、孤児だからといって同情する輩も蔑む輩も、スラムには一人としていないスラムはロルフにとって居心地のいい場所だった。
 幼い子供を狙う人拐いが多いスラムだったが、幸いにもロルフは体の成長が速く、人並み以上の長身を手にいれた為その心配は無いに等しかった。その上、幼い頃から荒んだ生活をしてきたせいか、目が合っただけで噛みつかれそうだとゴロツキ仲間に揶揄されるくらいには凄みのある顔付きをしているらしい。こればかりは、ロルフ自身美醜に拘らないせいかよく分かっていないが、一応女に困った事は無いだけマシだとは思っている。


「なんだ、童貞じゃないのか」

「潰すぞオッサン」


 毎日のように犯罪を繰り返し、次第に仲間が増え気付けばリーダーのような立ち位置にいたロルフだが、ある日を境に運命が変わってしまった。
街外れにある古城に、何故か時折政府の馬車が出入りしている。そんな情報を手にいれたロルフ達は、最近調子が良かったせいもあってか興味本意で忍び込む事にしたのだ。だが、事はそう上手く行かず城内にいた警備兵に囲まれてしまい、ロルフは仲間を咄嗟に逃がす事に成功したものの、代わりに自分だけ逃げ遅れ兵士に捕まってしまった。


「へぇ、だから青年はこんな湿気った地下牢にいるわけか。でも古城に忍び込んだぐらいで死刑になるか普通?」

「どうせ今までやってきた分が積み重なったんだろうよ…」

「枯れてるなぁ青年、仲間が助けに来るとは思わないのか?」

「呪術のかかった留置所に突っ込んで来る馬鹿はいねぇよ。……それよりオッサン、アンタが退屈で話せっつったんだ、次はアンタの番だろ」


そう言ってロルフは、同じく薄暗い牢に放り込まれた名も知らない男の小脇を肘で突いた。
 褐色肌で隻眼、無精髭が目立ち無造作に伸びた髪を適当に一纏めにしているこの男は、スラム育ちのロルフが言うのも躊躇われるがなんとも小汚ない風貌だ。本人はまだ25歳だと言っているが、その年齢詐称は無理がありすぎると、ロルフ全く信じていない。ロルフより以前から牢にいるこの男は、話し相手が出来た嬉しさからか、最初から妙にフレンドリーで色々とロルフに聞いてくるのだ。渋々ながら勢いに推されて答えていたロルフだが、やはり正体不明のこの男が時が経つに連れて馴れ馴れしくなるものだから、気持ち悪くて仕方がない。


「てかオッサン、馴れ馴れしすぎるだろ」

「おっと、すまないそんなに警戒しないでくれ。俺もまさか牢屋の中で好みの相手に出会えるとは思ってなくてな、ついつい興奮してた」


男の発言に、ロルフが警戒を強めたのは言うまでもない。


「………オッサン、そっちの気があんのか」

「女は美尻が好みだが、男は青年みたいな美脚でストイックっぽい男前が好みだ。それに話している内に、さらに魅力的に感じた」


まさか、死ぬ間際に貞操の心配をする日が来るとは、ロルフ自身想定していなかった。
あっけらかんと言ってのけた男は、心なしかロルフににじり寄ってきている気もする。


「正直、こんな状況でないならとっくに俺の船に連れ帰ってるところだな」

「船…?オッサン、海賊か?」


 ただの船乗りが、死刑宣告を受けて地下牢に入れられる筈はない。
無理矢理話を変えるためにも男に問い質せば、男が頷いて肯定した事で、ロルフの推測は正しかった事が判明した。


「そういえばまだ自己紹介してなかったな、俺はディートフリート・フック。海賊の船長をしている」


またもや落とされた爆弾に、ロルフは無意識に「嘘だろ…」と呟いた。
 海賊フック船長といえば、世界的に指名手配されている大罪人であり、知らぬ者などいないほど有名な存在だ。ロルフは実際に手配書を見たことはないが、その首にかかった賞金は軽く億を越えているという。


「すぐバレる冗談はやめろ、笑えねぇ」

「本当の事なんだがなぁ」

「本当なら今頃世間はお祭り騒ぎだろうよ」

「政府は俺を処刑してから公表したいらしい。安心出来ないんだとさ」


 犯罪者の代表みたいな男が、こんなへらへらしたオッサンだとは認めたくはない。
スラムで生きてきたロルフは海に出たことがない為、自由に海を駆け巡り世界各地で名を馳せるフック船長に何気に憧れを抱いていたのだ。


「第一、本当にアンタがフック船長なら何でこんなところにいるんだよ。簡単に捕まるか普通?」

「いやぁ、実は此処にある政府の施設に用があったんだが、目当ての秘宝が別の場所に移された後だったらしくてな、無駄足を食って捕まっちまったわけだ」

「……あ?秘宝?」


そんな話は聞いたことがなかった。
もし仮に、その秘宝とやらがあったとすれば、とっくに目をつけているはずだし、ロルフ自身見逃す筈がない。


「かなり伝説に近い代物だからな。名も一部しか知れてないし、紛い物も出回ってる……“不死の秘宝”って知ってるか?」


 黙って話を聞きながら、ロルフは首を左右に振った。
何故か、この男の言う事が冗談に聞こえなくなってきている。
 言葉を紡ぐ男の瞳が、暗闇の中で異様な輝きを放っているような幻覚をロルフは見ていた。


「別名“マリンブルー”。名の通り澄んだ海色をした雫型の水晶で、体内に取り込めば不老不死になれるといわれている」

「………」

「効果は如何程のものか分からんが、取り込んだ者の体の何処かに必ず幾何学模様の痣が………どうした青年、大胆だな?」


話を聞いていたロルフが、突然焦ったように上着を脱ぎ出したのを見て男は一旦言葉を噤んだ。
ベストのボタンを外し、シャツのボタンを一つずつ開いていく。その光景に釘付けになっていた男の目に、ロルフの胸元が映された瞬間、その空間から音が消え去った。


「……まさか、こんなん、じゃないよな?」

「いや、まさかのまさかだが……驚いた」


 僅かながらにロルフの声が震えている。
男は感嘆の声を洩らしながら、恐る恐るといった様子でロルフの胸元に手を伸ばし、そこにある幾何学模様を指でなぞった。


「青年、まさか例の古城でか…?」

「……あぁ、タダで捕まるのは癪だからって、逃げてる途中で見つけたもん片っ端からぶっ壊してる時に…」


古城で逃げ回っていた最中、暗闇の中で妙に目につく物があるなと思い、吸い寄せられるように手に掴んだ。
それがマリンブルーだったらしい。


「不味いことになった」


 そう言って額に手を当て、天井を仰いだ男にロルフは視線だけでどういう事なのだと訴えた。


「青年よ、もし仮にだ、処刑の際民衆の前で切り落とされたはずの首が元に戻ったとしたら、どうなると思う」


「………考えたくもねぇな」


渇いた笑いが、地下牢に響いた。






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