訂正/ストーカーロリータ
「おい邪魔だよ退けろ、ストーカーロリータ」
「出たわね悪の大魔王。私の王子様を邪悪に染めないで!」
「朝から鬱陶しいんだよ」
ぽかっと頭を殴られてリボンがへたる。それでもめげないで居られるのは、王子様が今日も優しく笑うから。隣のクラスに入ってその大好きな背中に抱き着こうとすると、意地悪な赤毛の大魔王が立ちはだかる。
「お前の背中は俺が守ってやる」
「退きなさいよ大魔王!」
「おうおう小さすぎて視界にも入んねぇなぁ」
毎日毎日、何故かその大魔王は私と王子様の恋路の邪魔をした。どうして新屋くんはこんな野蛮そうな人となんて一緒にいるのかしら。目付きは悪いし、言葉遣いだって汚いし。
「あ、蛍ちゃん来てたの?おはよ」
「っ…に、新屋くんお早う…!」
やっと私に気が付いた新屋くんが大魔王の肩越しに優しく笑う。その可愛い笑い顔だけで、私の心がどんなに満たされるか。
「あれ?蛍ちゃん何で裸足?」
「靴、なくなってたの。きっと悪い魔女が盗んだのよ。代わりにこれが入ってたの」
ポケットから手紙を出して手渡すと、二人がちょっと黙る。その手紙には赤い色で、死ねの一文字。
「仕方ないのよ、お姫様になるには沢山の困難を乗り越えなきゃならないの」
「苛められてんのかよ。そんな変なリボン付けてっからだろ」
「ちょっと凌ちん」
「変じゃないわよ、今日のリボンなんて兎さんを刺繍したの!よく見なさいよ大魔王」
「チビすぎて見えねぇよ」
げしっと大魔王の足の脛を蹴飛ばして、慌てて新屋くんの腕の中に飛び込んだ。新屋くんは私を受け止めて抱き締めてくれる。髪を引っ張られて振り返ると、大魔王が怖い顔で私を見下ろしてた。
「今日のリボンも可愛いよ」
大魔王が私の髪から手を離して、面倒臭そうに溜め息をつく。
優しい優しい王子様。どうしてそんなに優しいのかしら。小さな頃から私を呼ぶ名は宇宙人とか電波とか、そんな風にバカにする人ばかりだったのに。どうして見ず知らずのこんな私にまでそんなに優しいのかしら。
あぁそうか、私だけじゃない。
この人はきっと、誰にだって優しいんだ。
要らないものは、必要ないじゃない。
邪魔なものを一つずつ、淘汰する。
まずはそうね、あの大魔王。
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