ベソっかき
「あ、いいよ俺やっとくし。つーか疲れたからこのままサボるわ」
「っははマジかよ!んじゃ頼むわ」
「はいはいー」
体育の授業を終えてサボろうと片付けを買って出て、荷物を倉庫へと運んでく。春も過ぎて夏になる。もうすぐ夏休みだし、また適当にバイトでも探そうか。なんてぼんやり考えていると、突然ぐいっと腕を掴まれて体育倉庫に押し込められた。
手にしていた荷物が落ちて、倉庫内にテニスボールが数え切れないくらいに転がってく。
ガシャンッと思い切り棚に押し付けられて見やれば、凌ちんが鬼みたいな顔をして俺を睨んでいた。
え?何これ。何?俺ぶっ殺される?
「…………」
「…………」
いや何か言おうよ。ていうか背中ちょー痛いし。
「っ……俺も、耳ちぎるから」
「は?」
凌ちんが俺から手を離して、自分の耳に手を持っていこうとした。慌ててがしっとその腕を掴まえると、凌ちんが顔を俯けてベソをかく。
「ちょちょちょっと待ってちょっと一旦落ち着こうか!!大丈夫だから!耳ちぎれてないし!ちょっと裂けて血出ただけで千切れてないから!」
「…………」
突拍子もないなこのヤンキー。こえーよ。
「……で、何かあるじゃん?」
「…………」
差し出されて何かと受け取れば、あの日に取っ払われた俺のピアス。
「あぁ…うんまぁ、ありがと。いや、で?何かあるじゃん。言うことがあると思うんだけど」
「………す、すっ…す」
「違う違うそれじゃないわ!ありがとね!でもそれじゃない!違うじゃん、ごめんなさいは?」
「………ごめん、なさい」
凌ちんがでっかい身体を縮こまらせて俯いてベソかきながら弱く言う。そんなのもう、許せない訳がないじゃんか。
「俺もあの日は酷いこと言ってごめんね。もう別に怒ってないよ。俺も何となく色々考えてて時間掛かっちゃったけど……」
話してる途中なのにがしっと抱き締められて、思わず両手を上げた。ちょっと待ってちょっと待ってお兄さん。嘘でしょ。
「あは、とりあえず離れよっか。ちょっとマズイじゃん?つーか意外と凌ちんってアホの子だよネ…」
「……悪かった」
「あ、うん!こちらこそ!」
笑えるくらいに真っ直ぐで、笑えるくらいに不器用だ。でもま、これでやっと一安心かな。一人にしておくと凌ちんそろそろ病みそうだったし。
まぁやっぱ、俺がいなきゃ始まらないでしょ。
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