3 実際、有言実行というものはとてつもなく難しい。
泣き喚くハリーを見て、スネイプは心から後悔していた。
「な、泣き止んでくれ…」
スネイプ自身が泣きそうな声でハリーに言った。
だがそんな言葉は赤ん坊には届くはずもなく、更にうるさく喚くハリーにスネイプは頭を抱えた。
赤ん坊の世話などしたことのないスネイプは、何故泣いているのか、その原因がわからないため対処が出来ない。
腹が減っているのか、オムツが汚れたのか、赤ん坊が泣くのは大体この2択なのだが、頭がパニック状態になってしまっているスネイプは到底この答えにはたどり着けなさそうだった。
「リリー…」
ふと呟いていた。
この子、ハリーの母の名前。
「君は偉大な魔法使いにして同時に母だったのだな…」
「何をぶつぶつ言っているんだい?」
はっと声のした方を向く。
そこにはリーマス・ルーピンがいた。
相変わらず健康そうには見えない。
いつだか本人に告げたことがあるが、君も同じようなものだと言われた。
「あーあ!可哀想に!何で泣いてるのに何もしないの」
「あっ」
「ほら、どいて」
ハリーの前からしっしと追い払われてしまう。
自分ではどうしようもなかったので代わってくれるのは嬉しかったがその仕草にムッとした。
だがやはりこのまままた自分に世話を任されると非常に困るのでぐっとこらえた。
「あーオムツが汚れてたんだね。今替えてあげるからねー」
猫なで声でルーピンがハリーをあやす。
テキパキとした仕事ぶりは見事なものだった。
ハリーが泣き止み、泣き疲れて眠ってしまい静かになったところでルーピンに声をかけた。
「…お前、子育ての経験、あったのか?」
いきなり尋ねられぶっと紅茶を吹き出すルーピン。
「こ、こっちは真剣なのだぞ!」
「ごめんごめん…」
こぼした紅茶を拭きながらルーピンが謝る。
くくくと小さく笑いながら。
「子育ての経験なんてないよ。ただ友人の子供を少し任されたことがあっただけさ。」
苦笑しながら言うルーピンの姿は、スネイプには救世主に見えた。
「こ、子育ての仕方を教えてくれないか…?」
上目遣いで懇願するその姿にルーピンは気をよくした。
いつも高慢で高飛車な彼からこんな言葉と態度をとられるのはきっと少ないだろう。
しばらくその姿を眺めてからいいよ、と承諾の意を表した。
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