夏とロックとティーンエイジャー

深夜3時に既読がついた



古賀との最後のやり取りは、夏休みの宿題の範囲を確認しただけの取り止めのないものだった。
そのやり取りの最後は、古賀から送られてきた変なスタンプで締めくくられている。

このスタンプの後に「合宿来いよ」と連絡するのはいささかタイミングが悪かった。
かと言って向こうからの連絡を待っていたら夏休みが終わるだろう。

今までどんなやり取りをしていたか遡ろうとスワイプしていると、人差し指が画面右上の通話ボタンを押した。
慌てて電話を切ったが、画面には受話器のマークとキャンセルの文字が残った。

そして驚くことに、すぐに古賀からメッセージが届いた。



なに?



そして自分がそれを見ていると言うことはつまりあちらに既読が付いたと言うことになる。
なんでこんな時は返事早いねん、と悪態付いた舌打ちを鳴らしてから指を動かした。



ミスった
すまん


 
またすぐに既読がついて、ええで、とだけ返ってきた。
もう面倒なのでこのまま会話を続けようと、財前はまた指を動かした。



勉強合宿来るん?


今週の土曜日やっけ
行くかなぁ、そろそろ顔出さなヤバいし

休んでる聞いたけど平気なんか


ああうん、大丈夫

サボりか


気晴らししよう思うて、遊んでた

元気やん


元気ではないねん

おセンチやな


試合でポカしてから飯がまずい

まずくても飯は食っとけや


財前は晩飯なに食べたん

生姜焼きと米と味噌汁


あー、ええな
文字見たら腹減ってきた

クソ単純


ラーメン食べてくる

いってら




古賀からスタンプが送られてきて、やり取りはここで途絶えた。
ラインを続ける元気があることがわかったので、そこまで重症ではないこともわかった。
そして原因が、準決勝で負けた試合であることも。

これは俺から話してもええ話なんか、と。
昼間桂木から聞いた話を思い返し、追求すべきかはたまたカウンセリングをすべきか迷った。

カウンセリングといっても、自分の身の上話を絡めて、「お前は俺よりマシだ」と思わせる荒治療しかできない。
せっかく癒えかけた古傷を古賀の為にさらけ出すのは、なんというか、シャクだった。

「…お前は俺よりマシやろ」

口に出してみたが、やはり面と向かって言えるものではないので伝えるなら文字のほうが良い。
向こうの顔が見えない分、伝えやすい。

しかしこれを送ってどうしたんと蒸し返されるのも、人と比べんなやと正論を言われるのも嫌だった。
ならばもう、黙っておくしかない。
遅かれ早かれ古賀にも伝わって、同情の目を向けられることだろう。なら別に今じゃなくてもいい。そう思い込んだ。

財前は携帯をベッドに放り投げ、机に向かう。
ゲームでもして気を紛らわせようと、パソコンの電源ボタンを押し、イヤホンを付けた。


深夜の1時を過ぎた頃。
ゲームをログアウトし、気になったのでパソコンのデスクトップのトークアプリのアイコンを開いた。

トーク一覧の一番上には、古賀の名前と数字の1。
あの後返信が来ていたらしい。日付は昨日になっているので日を跨ぐ前に送られてきたものだった。



合宿ん時、数学のプリント写させて


返信するか迷ったが、財前はそのままキーボードで文字を打ち込んだ。



お前と俺数学のクラス違うから、プリント別やろ



送信ボタンを押して、パソコンの電源も切った。

寝る前に携帯を確認したが、既読はついていなかった。



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