22 最後の悪戯

 「悪くない」とフレッドは言った。珍しい表情をしていた。感心しているのに、腑に落ちない、といったところだ。そして双子の自分もまた同じ表情をしているのだろう、とジョージは思った。
 「悪くない?」彼女はフレッドのそれを褒め言葉として受け取ったようで、満更でもなかった。
 アンブリッジに取り上げられた、フレッドとジョージのクリーンスイープとハリーのファイアボルトは、アンブリッジの執務室にあった。机の後ろの壁に打ち込まれた、がっしりとした鉄の杭に鎖で繋がれて、南京錠を掛けられている。が、フレッドの言うとおり、箒そのものの状態はそれほど悪くなかった。心配していた干割れはなく、それどころか汚れを落とされ、箒用の蝋で手入れされたおかげで艶まで出ている。少し見違えたくらいだ。
 「穂のほうはあんまり触らなかったよ」と彼女は言った。「穂先のバランスで乗り心地が変わるっていうし、基本的に持ち主がするものらしいから。伸びてきた枝は時々、剪定したけど。アンブリッジ先生は気づかなかったみたい」
 「まだ気づかないなら、あいつの目は節穴だよ」ジョージが言うと、同意するみたいにフレッドは何度も頭を振った。
 「俺たち、きみに感謝しなきゃ!」
 「箒の世話をしてくれたことも、こうして今夜、手引きしてくれたことも」
 彼女の頬に左右から顔を寄せる。彼女は同じ顔をそれぞれ手で押し返しながら、「本当に見るだけでよかったの?」と不思議そうだった。
 「いまここで盗み出しても、アンブリッジにすぐ取り返されちまうだろうし」とフレッド。
 「箒が無事だってわかればいいんだ、いまのところは」ジョージも言いながら、鎖の重さや杭の深さを触って調べた。
 箒が繋がれている隣の壁には、飾り皿のコレクションが並び、首にいろいろなリボンを結んだ子猫の絵は、一匹残らず眠っている。アンブリッジの執務室に侵入してすぐ、彼女が呪文で眠らせたのだ。どういうわけか、彼女は扉の施錠も手際良く解除した。
 いまは謹慎の身とはいえ、ずっとアンブリッジのそばにいたのだ。害がなさそうな顔をして、防衛対策の穴はしっかり見ていたんだな、とジョージは心の中でにやりとした。彼女にきてもらって正解だったというわけだ。
 「見ろよ、これ」フレッドが噴き出して、アンブリッジの机の端にある、横長の大きな角材を持ち上げ、ジョージのほうに寄越した。そこには、金文字で“校長”と書いてあった。
 「せっかくダンブルドアがいなくなったのに、校長室のガーゴイルのところを通れなかったんだってな」
 「校長室は、ひとりでに封鎖して、アンブリッジを締め出したんだ。相当癇癪を起こしたらしいぜ」 ジョージも笑みを浮かべた。
 「哀れなアンブリッジ。校長の椅子に座る自分の姿が見みたくてしょうがなかっただろうに」
 「部屋のものに触らないでね」彼女が言った。「ほら、用が済んだなら、もう行くよ」

 アンブリッジの執務室からグリフィンドール塔へ戻る途中、ほかのふたりの前を歩いていたジョージは、「おっと」と足を止めた。フレッドが背中にぶつかり、「いてっ」と声をあげた。
 「こっちだ」ジョージは声を低くし、素早い動きでいま来た道を引き返した。廊下の壁にかけてある、タペストリーをめくると、そこに隠された扉がある。三人は滑り込み、ジョージは杖先の明かりを、ぱっと消した。
 「この部屋は?」真っ暗闇の中で彼女が訊いた。ジョージの服の裾を掴んでいるのは、きっと彼女だろう。
 「さあ? ただの物置だと思う」ジョージは扉に耳を当てて、言った。
 「タペストリーの裏に部屋があるなんて知らなかった」
 「気にするな、みんな知らないさ」フレッドが得意げに言った。

 「フレッド、それ私」
 「あ、ごめんよ、どうりで」

 ジョージは、しっ、と指を立てた。が、この暗闇の中じゃだれにも見えない。廊下のほうで馬鹿そうな話し声と人の足音がいくつか、こちらに近づいてくる気配があった。
 「監督生?」彼女が小声で訊いた。
 「“尋問官親衛隊”だよ」フレッドが答えた。
 「尋問官……?」
 「親衛隊。アンブリッジが自分のお気に入りの生徒にバッジと権限を与えたんだよ。ほかの生徒を好きに減点できるっていうね」ジョージは説明した。
 「主にドラコ・マルフォイとその取り巻きたちさ。おかげで、寮の点数がめちゃくちゃになった。グリフィンドールはレイブンクローと一位を競ってたのに、いまでは最下位だ」
 「その代わり、俺たちを減点しようとしたモンタギューは、二階の“姿をくらます飾り棚”に頭から突っ込んでやったけどな」
 「ええ?」と彼女は動揺した。「それ、どうなったの?」
 「そのうち戻ってくるさ。いつ、どこからかはわからないけど」
 「やっぱり執務室の近くは見回りが厳重だな」ジョージは扉から顔を離した。「しばらくここから出られないかも」
 杖の明かりをふいに戻した。さっきより光を弱めたつもりだったが、三人とも目を瞬かせた。

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