18 ザ・クィブラー三月号

グリモールド・プレイスの玄関を忍足で通り抜けるなり、リーマスは長い脚で跨ぐようにして階段を最上階まで一気に上った。息を整える間もなく、「シリウス」と声をかけながら、バックビークの部屋の扉を開く。「きょうは、いいものを持ってきたよ」
リーマスを見て、バックビークが嬉しそうに鳴き、彼の横腹を背もたれ代わりにだらしない格好で雑誌を読んでいたシリウスは、少しだけ雑誌をずらすと、顔の半分を覗かせ、面倒臭そうに視線だけをこちらに寄越した。
「あ」とリーマスから声が漏れる。
シリウスの持っている雑誌は、まさにリーマスが渡そうとしていた、発売したばかりの、“ザ・クィブラー”だった。

「それ、どうしたんだい」
「さっきアーサーが置いていった」
「なんだ。きみの驚く顔が見たかったのに」
「驚いてるよ、色んな意味で」

シリウスは身体を捻ると、バックビークの影から何冊もの雑誌をどさっと取り出した。すべてが同じ雑誌だ。表紙には、ハリーの顔写真と、真っ赤な字で大々的にこう書いてある。

“ハリー・ポッターついに語る
「名前を呼んではいけないあの人」の真相
――僕がその人の復活を見た夜”

「きょうは来客が多いと思ったら、みんなしてこれを置いていったんだ」シリウスは迷惑そうな口振りだった。
量からして、ほとんどの騎士団員が、“ザ・クィブラー”の三月号をグリモールド・プレイスに持ってきたようだった。
再びバックビークに寄りかかり、寛げる体勢を見つけると、雑誌のつづきを読みはじめたが、さきほどよりリーマスに背中を向ける角度に変わっている。

「もうちょっと打ち合わせしたほうがいいぞ、おまえたち」
「そうは言っても、雑誌を見つけて、すぐに買っちゃったから」なんならリーマスは、同じ雑誌を二冊も購入してきた。自分用とシリウスに、だ。シリウスが見たら喜ぶだろう、というほかに考える余地などなかった。
「アーサーとモリーも、夫婦のくせにそれぞれ一冊ずつっておかしいだろ」
「うん、まあ……」せっかく買ってきた雑誌代が無駄になってしまったので、リーマスは残念だったが、不貞腐れてるようなシリウスに、明るく声をかけるべきだと思った。

「でも、よかったね?」

疲労と倦怠がどんよりとした雨雲のように充満している雰囲気が、きょうは少しだけ軽くなっているような気配がしたからだ。
「ふん」と鼻を鳴らすだけで、シリウスはバックビークの羽毛に埋もれている。
リーマスは手元の“ザ・クィブラー”に視線を落とした。表紙からハリーの顔が、気恥ずかしげに、にやっと笑いかけてきた。

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