04 懲戒尋問

神妙な顔つきの大人たちが食堂に集まり、声を落として真剣な話し合いが行われる夜のほかは、ブラック家の屋敷は賑やかなほうだった。それはやはり、子どもたちの存在があったおかげだろう。
最初は騎士団の会議に交ざりたくて仕方がない様子も隠さず、屋敷の呼び鈴が鳴るたびに、シリウスの母親の金切り声にも負けず 、訪問客を確認しようと揃って部屋を飛び出してきた。しかし、しばらくして彼らも、自分たちに課せられた仕事が容易ではないことに気づきはじめた。
何十年も住む人間がいなかった屋敷は、朽ちて階段の手すりさえ信用できないし、カーテン一枚にしても、生半可な気持ちでめくったら、鋭く小さな牙を剥き出しにしたドクシーが襲いかかってくる始末だ。
一見、ただの文机に見えても、ガタガタとひとりでに揺れている以上、中からなにが飛び出してくるのか、ムーディさんの魔法の目がなければ、だれにもわからない。怪我をしたくなければ、否応なしに慎重にならざる状況で、ウィーズリー夫人の監督のもと、子どもたちもいつしか、屋敷の除せんに対して真面目に取り組むようになっていた。
大人の話に首を突っ込むこと以外に夢中になってくれるのは、彼女にとってもありがたい。
ハリーを見ていると、彼を待つ魔法省での尋問のことをじっと考えるより、いまはそうして身体を動かすことで、少しでも気が紛れてくれれば、とも思う。
部屋の除せん中は、顔をほとんど布で覆っているが時折、友人たちに囲まれてハリーも笑顔を見せたし、みんなの楽しそうな悲鳴や笑い声が聞こえてくることも少なくなかった。
そう、子どもたちがそばにいると、自分がなんのためにここにいるのか、その意味をはっきりと知ることができる。

ふー、と息を吐き、目の前の扉を叩く。反応がないと思ったら、中から激しい物音がして、また静まり返ったあと、「どうぞー」と返事があった。不自然なほど軽妙な声だ。
「なんだ、きみか」ベッドに寝転がっていたフレッドが、安心したような、不満そうな顔で髪を撫であげ、同じ顔のジョージは、床に座り込んでいる。「ママだったら、ノックなんかしないもんな」
予言者新聞のある広告が載っている一面を、彼女は差し出した。ふたりは同時に覗きこんできて、何事かとわかると、照れ笑いのような表情を浮かべた。

「信じられない。その新聞をまだ読んでいるひとが、この屋敷にいたなんて」
「頼むから、ママにだけは言わないでくれよ」

それは悪戯用品の通信販売を宣伝する広告だった。騎士団では、たしかにだれも予言者新聞に目もくれないせいか、小さな広告には、堂々とふたりの署名まで載っている。

「時々、ドクシーを盗んでるのは、これのため?」

少し動揺したふたりの目が、フレッドのいるベッドに向けられる。なるほど、さっきの物音は、そのベッドの下に、くすねたドクシーや、シリウスの手をかさぶただらけにした煙草入れを、慌てて滑りこませたのだろう。
視線だけで会話を交わすと、降参した、というように、両手を持ち上げて見せた。

「ママの目はごまかせても、きみは無理か」
「商品は、実はまだ実験段階なんだ」
「そのために、いまはドクシーの毒液を試してる」
「実験台は自分たちだから、心配いらないよ。弟たちは使わない」
「どうしてそこまでするの?」

たまに決闘後のような怪我を負っているのも、彼らに言わせれば、実験の成果なのかもしれない。
彼女の質問は意外だったのか、ふたりは目を丸くしたが、すぐに、そりゃあ、と鼻息を荒くし、声を揃えた。

「ふたりで店を出すためさ」
「悪戯専門店は、僕たちの夢だ」
「出店するならやっぱり、ホグズミードだな。でも」
「ダイアゴン横丁も捨てがたい」
「本当はホグワーツにも帰りたくないんだよ」
「僕たちがあそこで学ぶべきことは、もうないと思うからね」
「まぁ、ホグワーツにはママがいないから」
「商品開発に集中できるってもんさ」

彼らから発せられる、若い熱気が、部屋に充満している。
このふたりには、きっと関係がない。かつて闇の帝王と呼ばれた者が舞い戻ってこようと、善と悪の均等が間近で崩れかけていようと、ふたりには夢がある。どんな世界だろうと、彼らは強い意志で、それを追い続けるのだ。
ここにいる、大人たちは、この戦いでなにかを失うことを知っている。犠牲は必ず、払わされる。だから、子どもたちを遠ざけたがる。
でも、このふたりのような夢を追う若者の、こそばしく、眩しいくらいの光こそが、焼け野原に新しい世界をつくっていくことも知っている。
そうであってほしい、と願っている。そのためならば、と。

「店を持ったら、きみとの追いかけっこは大切な思い出にして、しまっておくよ」
「好敵手がいなくなるからって、寂しがるなよ」

人懐っこい笑顔で、ふたりは身を乗り出してきた。
「それは約束できない」と彼女は静かに微笑んだ。
悪戯専門店を、彼らの両親が知ってどうするかは、わからない。
ただ、いずれふたりが卒業を迎え、ホグワーツを去る日を思うと、寂しがるな、というのは、無理な話だ。

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