15 変わらないもの

ポリアコフが声をかけると、彼女は、いつもいやな顔ひとつせずに応じてくれる。ポリアコフが言えば、ホグワーツじゅうを案内してくれた。
クリスマスの夜も、ホグワーツの校庭に忽然と現れた、薔薇園の曲がりくねった散歩道を見て、ポリアコフは、彼女と一緒にここを歩きたい、と思った。だが、大広間でダンスパーティがはじまってから、ポリアコフはいまだに彼女に声をかけられずにいる。
彼女は、氷の宮殿のような大広間の隅で、ダンスに興じる生徒たちを眺めながら、マッド-アイ・ムーディとテーブルを囲んで、親しげに話していた。あそこに割って入っていくのは、だれだって勇気がいることだ。
しかし、運がいいことに、自分たちのそばでぼーっとしているポリアコフに、彼女が気づいて、「楽しんでいる?」と声をかけてくれた。
それから、ポリアコフが校庭の散歩に誘うと彼女は、「いいよ」とすぐに了承した。もっと早く、声をかければよかった。

「小僧、その女はやめておいたほうがいいぞ」

上着を取りに行く彼女が席を立つと、マッド-アイが傷だらけの頬を引きつらせて言った。引きった頬は、笑っているらしかった。
すっかり萎縮しているポリアコフに代わり、「そんなことを言って」と彼女が言い返している。

「私がいなくなると、寂しいのでしょう」
「たわけ、さっさと行け」


樫の扉を一緒に潜る。石段の上からだと、校庭に広がる薔薇園を一望できた。いくつもの妖精の光が、瞬き、煌めき、石の彫刻でできた、サンタクロースやトナカイの周りをふわふわと飛んでいる。

「寒くないですか?」

ポリアコフは自分が羽織っていた、毛皮のローブを、指先に息を吐きかけていた彼女の肩にかけた。彼女のスカート姿を隠してしまうので、少し勿体ない気もする。

「ありがとう。でも、自分のがあるから、大丈夫だよ」
「ヴぉくたちは、いつももっと寒いところにいるから、平気です」

たどたどしい英語に、しっかりと耳を傾け、彼女はもう一度、「ありがとう」と言った。本当にありがたそうに、ポリアコフのローブを首元に引き寄せる。
ふたりは、足が赴くまま、散歩道を進んだ。道の脇に置かれたベンチは、先約のカップルで埋まっていたので、ますます奥へ進む。

「ホグワーツはとても綺麗です。ヴぉくたちの学校に、妖精はいないです」

ポリアコフは、ホグワーツとダームストラングのちがいを話した。クリスマスの装飾を褒められると、彼女はとくに嬉しそうだった。
彼女は、口数が多いほうではないし、いつも落ち着いている。雪が降った日の、静謐としたひとときがよく似合っていた。

「そろそろ戻らなくて、大丈夫?」

薔薇園で囲われた、噴水のあるちょっとした広場に行き着いたとき、彼女がふいに言った。

「どうしてですか?」
「ダンスのパートナーを、放ったらかしにしていていいの」
「パートナーは、いません」
「あら……」

意外だ、という顔をする。それから、すまなさそうに眉を困らせた。寂しい男だ、と思われたのかもしれない。

「あなたは、踊りますか?」
「私は、踊らないよ。踊れないし……」

彼女は、立ち止まっていられないのか、寒そうに足踏みしたり、軽く膝を曲げたり、伸ばしたりしている。

「ヴぉく、教えてあげますよ」

大広間で奏でられている、妖女シスターズの暗めの演奏が、冷たい空気に交じって流れてくる。
噴水の水面に映る妖精の光を覗いていた彼女は、急に近くにいたポリアコフに、驚いた反応を見せた。
「いい、いい」と慌ただしい様子で首を振る。

「ダンスなんて、恥ずかしいよ」
「踊れば、身体も温まります」

彼女の腰に手を当てる。構えた自分の手に、彼女が手を伸ばすのを待った。
ちょっと強引だったかな、と思ったけれど彼女は、おずおずとポリアコフの手に、自分の手を重ねた。

「こう? 合ってる?」
「上手です。きっと、才能あります」

からかっているとわかったのか、彼女が笑みをこぼす。
女性に対して積極的なポリアコフだった。クリスマスを目前にしても、好きな女の子に声をかけられず、ビクトールが羨ましいと言っていた。
ビクトールに羨ましがられることなんて、滅多にない。

「右足から、前に……そう、つぎは左足を……」
「足を踏んでしまいそう」
「大丈夫。ヴぉくは頑丈だから」

ポリアコフは故郷の花を思い出す。笑う彼女は、雪のなかに咲く、清らかな花のように可憐で、ポリアコフの心を離さなかった。

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