No title | ナノ

三年生が三人、二年生が一人

去年、三年生が六人抜けたからと

とにかく部員が欲しいのだと頼まれた

彼女は佐原真衣

軽音部の紅一点

片っ端から声をかけ、部員を集めている


その姿を見て、クラスの男子が笑う

あのヘタクソバンド、まだあったんだ?


『軽音部だって、サッカー部みたいになれるもん!』


弱小と言われていたサッカー部が、日本一になったように

必死にあがく姿を見たあたしは、思わず頷いて、とりあえず見学だけでも、と答えた


まさか、あたしがドラムを叩けるとは思っていなかったらしい真衣ちゃんは

嬉しそうにふにゃりと笑った

部員もかなりフレンドリーで、あたしもすっかり溶け込んだ


『なんか、今日篠田サン主催のカラオケ大会やるらしいっすよ』

『篠田…あぁ、ボーカルの』


貸し出しの手続きは済んだのに、ケントはカウンターに居座る

あたしの返答を待っているのだろう

ケントの担当はキーボードで、机でもなんでも、鍵盤を弾くように指を動かす癖がある

ケントの指が奏でるカタカタという音をBGMに、あたしは仕事をしながら考える


『うーん…、今日は遠慮しとくって伝えといてくれる?』

『えー、みょうじサン行かないんすかー』


じゃあ、お土産期待してますんで

渋々とそう言い捨てて去っていったケントのお陰で

修学旅行が近いことを思い出した


その頃あたしは、自分に向けられていた一つの視線に、気がついていなかった






(少しずつ、無くしてしまったパズルのピースが埋まっていく)



 


back