No title | ナノ
ジリリリリリ……


いつものようにまだ温かさの残る布団から手を伸ばす

もちろん、耳につく独特なあの音を止めるために


―――手は、空をきった


あれ

おかしいぞ


目覚まし時計はベッドの上にあるはずなのに

目を開けた


―――あれ、どこだここ


見慣れない天井

まだ起きていない頭を働かせ、起き上がると


床に未開封のダンボールが3つあった


そしてふと、思い出す


『あたし、引っ越したんだっけ…』


小さな頃、物心ついた頃から両親は共働き

すれ違いなんて日常茶飯事


一人娘のあたしのためなのか、ギリギリ保っていた家族は

ついこの間、終わりを告げた


―――無理しなくていいよ


あたしがそう両親に告げると、いつのまにか父さんは家を出て

母さんも支度をしていた


あたしは母さんと暮らすことになった

母さんの兄にあたる響木正剛叔父さんのところに居候だ


もちろん母さんは仕事だから

あたしは一人でここにお世話になる


『…、う、うるさい』


考え事をしていたら、時計を止めるのを忘れていた

耳が痛いぞ、このやろー






(悲劇のヒロインに立候補、ってほどではないけれど)



 (c)ひよこ屋


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