グラジオラス | ナノ
Episode 08


「やっぱり幸也と別れたくないよ」


そう言って綺麗な涙を流すのは、先日新年を一緒に迎えた彼女だ。
ああ、今回もダメだったか。

泣く彼女を見ながら、どこか他人事のようなことを考えている自分を、我ながら冷たい男だなと思う。


「ごめん、でもダメなんだ」


俺は今までの彼女も、今目の前で涙を流す彼女にも、この言葉で別れを告げている。
そして、泣かしている。


「わたしに不満があるなら言ってよ・・・」
「違うよ、君は悪くない。 むしろすごく素敵な女性だ」
「じゃあどうしてっ・・・」


君のこと好きじゃなかったんだ。
いや、好きになれなかったんだ。
今も今までもそんな本音を抱えながら、建前だけ並べて交際をしていた。
でも、最後は結局その本音に気付かれる。


「幸也が・・・私を見ていないって気付いてたよ・・・。
でも、それでもあなたが振り向いてくれるって信じて努力したよ」


彼女はさらに泣いている。

知ってたよ。君が俺のために努力してくれてたことを。
でも、俺も限界なんだ。
結局、何をしても君へ気持ちは傾かない。


「ねぇ、幸也」


彼女を眺めているときゅっと裾を掴まれた。
俺はその手を離そうと、自分のそれを伸ばした。


「あなたは、誰を想っているの」


彼女の言葉に、伸ばしていた手をぴたりと止めた。


「・・・」
「まさか・・・ち・・・」


俺の核心に触れた彼女の口から出かけた言葉を、聞きたくなくて、思わず彼女の頭を自分の胸に引き寄せた。


「お願いだから・・・それ以上言わないで・・・」

「お願いだ・・・もう別れて欲しい。」


俺は縋るような声で彼女に言った。


「じゃあ・・・最後に抱きしめてよ・・・」
「・・・」
「大人しく別れる、し、これ以上何も言わないから・・・」


抱きしめて、と再び言った彼女に、謝罪の意を込めて抱き締めた。

そしてしばらくの間、誰も通らないマンションの通りには、彼女の鼻を啜る音だけが響いた。



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