4:顔-前編-

「いい本だなこれ」

書物のページを捲りながら、俺は感嘆を漏らした。
かなりの年代物のその本は、薄汚れながらも装丁の美しさが際立ち、それに負けず内容が充実していた。


「この前僕に貸してくれた本もすごく読み易かったよ」

「ほんと?良かった」

アルの横にちょこんと座った未登録が答える。
今までずっとアルと二人きりだったから、未だに違和感がないでもない。

「どれも此処にはねぇ本だな」

「うん…本屋さんで見つけて」

「そうだ、今度この辺でお勧めの本屋教えてくれよ」

「兄さん、そろそろ閉館時間だよ」

「うわ〜もうそんな時間か」


アルに言われて慌しく山積みの本を整理して。
そして三人揃って図書館を出た。

俺達はここのところ毎日図書館に入り浸っている。
資料集めもあるし、此処なら平日の昼間は人の出入りも殆どなくて、
ゆっくり未登録の話を聞けるかと思ったんだけど。

依然未登録には何も聞けないまま。

向こうから切り出してくるのを待つべきなのか。
らしくないけどどうしたものか迷っている。


「あー肩凝ったな…」

「一日中座りっぱなしだもの、無理もないわ」

右手で左肩をほぐしながら、すぐ横で揺れる髪の流れに目を奪われる。
隣にこうして未登録が居るのは、やっぱ不思議な感じだ。
なんか擽ったい。


「…未登録、明日も来るか?」

「あ、うん。邪魔でなければ」

「ば、邪魔な訳ねぇだろ!」

むしろ嬉しい。
…なんて口が裂けても言えないけど。


歩き始めて15分。
二つ目の交差点に差し掛かった。この先に俺達が滞在している宿屋がある。
未登録もこの近くに住んでいるらしい。


「じゃあ、またね」

「おう」

未登録は軽く手を振って。

いつものように小さくなるその後ろ姿を見送った。




明日になればまた会えるのに。


何度次の約束をしても、未登録はその日の内に忽然と消えちまいそうだった。




昔はそんな事思わなかったのに。









「兄さん、未登録の事大佐に言わなくていいのかな。ロス少尉達にも口止めしたけど、
軍に保護して貰った方が安全かもしれないし」

「…どうだろうなぁ、軍が何処まで信用出来るか」

未登録に借りた本の縁をなぞりながら、考えを巡らせる。
事件のこと、再会した時のこと…。


「大佐なら良くしてくれると思うけど。…でも未登録から話を聴かないとどうにもならないよね。
あの時は何かに怯えてるみたいだったけど、思ったより自由に行動してるし」

「なんでだろうなぁ…」

「…兄さん、真面目に聞いてる?」

「……」

「兄さんてば、もう…」

アルの小さな溜め息にも気づかず、俺はてんで上の空だった。



この数年に何があった。
なんで俺達の後をつけてた?
何かあるとしたら、なんで隠すんだ?


そして、何よりも…。





未登録と会う度に、
俺の頭の中には、同じ疑問ばかりが浮かんでは消えた。

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