「...彼女が?間違いないのか」
「はい、確認されたようです」

6年ほど前まで、弊社の科学部門に務めていた女科学者がいた。
数年前のとある事件以来、神羅からソルジャー関連の社外秘データを持ち出し姿を消していたが、数日前に植物状態のようになっていたところをミッドガルの本社に回収されたという。しかしその体は既に科学部門に渡り、最重要機密として秘匿され、我々タークスにも関係がないものだと、それ以上の追求は許されなかった。その事実は彼女と個人的な親交があった冷静な副社長を、珍しくも動揺させたようであった。
副社長は、ジュノンから動けず、事態の詳細を知りえない自分を歯がゆく思ったのだろう。からこそ、我々タークスに彼女の身に起こった事態の詳細な調査の命令を下した。
我々はその任務を遂行するために、かつての主を失った科学部門の閉ざされた研究室の一室に足を踏み入れた。

「...ここだったな、と」
「...」
「ああ、間違いない。探すぞレノ、ルード」
「「了解」」

すっかり埃をかぶった提出期限もずいぶん前に過ぎているだろう研究書類をデスクからおしのけ、まだ生きているらしい何年も前の旧式のパソコンの電源を入れた。
研究サンプルやらが雑多に並ぶ科学部門の研究室の中でも珍しく綺麗に片付けられたこのデスクまわりは、ここにかつて座っていた人間の几帳面な性格が伺える。
パソコン内のフォルダもさぞ見やすく整理されていただろう、本来ならば。

「...やはり、根こそぎ研究データは削除してあるな」
「社内データの閲覧履歴も全削除済みみたいですね...」

完全に空っぽ状態のパソコンの中身になにかひとつなりとも残っていないかと搜索すべく、横に置かれたマウスを手にした。

***

目が疲れてきた頃、半ば諦めにも似た感情を胸に抱きつつも最後のフォルダを開けば、ひとつだけ残されたデータが目に入る。
フォルダ名を見れば、それが何かはすぐに察せた。

「...日記?」

すかさずにそのファイルを開けば、彼女が神羅に務め始めた年から、彼女が神羅を出たその日まで日記は綴られていた。
話題は公私をきっちり分けているようで社内での内容も仕事には触れない、プライベートのようなとりとめのないものばかり。しかし感情や考えの変化は、私事をまとめた日記にこそ現れていた。
私は彼女の過ごした日々の中で、何があの行動に出させたのかを知るためにこれを読みすすめていくことにし、長くなりそうだと主人がいなくなって久しい椅子の埃を払い、腰掛けた。


end
科学者××の手記
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