4拍目のG7
2019/03/13

凄くタイトルがかっこつけた感じになってしまった。

先日、漫才コンビの和牛さんが出演する
愛媛県をPRした動画「疲れたら、愛媛」を見た。
和牛さんのことは昨年末のM−1を見てから
応援するようになったニワカな私であるが、
この動画の歌がレトロな昭和歌謡のようで
とても覚えやすくて耳に残る。
子どもたちも踊りやセリフを覚えて絶妙に真似をしている。
特に4歳になる娘は、
フリルピンクヒラヒラ至上主義なので
OLに扮している川西さんの真似をするのかと思いきや、
白装束にヤツレメイクのお疲れ神になっている水田さんがお気に入りらしい。

つかれた!ら!←肩をトトンと叩く
え〜ひめ! ←片手を前に出しウンと頷く
タタタタン ←腰を4回フリフリ

この部分のダンスがおかしすぎて何度も子供に踊らせてしまう。

私はオモチャのピアノを持ってきて、
この曲のメロディーを弾いてみる。

「おぉ、お前やっぱ凄いな。」
この時は実家に帰省しているときだったので、
父が会話に入ってくる。

私の父はかなり無口だ。
私は世の父親はそれが普通だと思っていたが、
周りの人がこぞって父はシャイな人だと
評価するので、間違いなく愛想がいいタイプではない。


私の音取りを褒めるのは建前で、
自分も趣味のギターで音取りに参加したいようだ。

歌のメロディーはわかったので、
次はコードを探す。

♪おつかれさまです〜 Cm
♪おつかれさまです〜 Fm

で、次が

♪つかれたひとにとりつく〜

私はコード名に詳しくなく、
「♭シ、レ、ファのコードだよ」と父に言うと
「いやG7だ」と却下される。

「え?G7はソシレファじゃない?
ここの小節はメジャーキーだと思うんやけど」
私はおもちゃのピアノの鍵盤を弾いて説明するが、
ギター弾きの父は鍵盤で言われても伝わらない。

逆に父からはAとかEとかギター視点で
一方的に反論されるから、
ゆっくり言ってもらわないとわからない。
私はピアノ畑の人間なのでドレミファソで教えてほしい。

お笑いコンビのローカル動画を前にして、
おもちゃのピアノを取られて不機嫌な子供を
置いてけぼりにして、
私と父は数分間、3小節目のコードで口論した。
口論なんてかっこいいものではなく、
お互いが相手の話を遮って
自分視点の主張を述べるだけの
全く建設的でない時間だった。

今思えばこの説明が下手くそで無駄に熱く喋るの
完全に父譲りじゃんとわかるが、
その時の私はそんな事を考えるよしもなかった。
そもそも父と口論になるほど熱く喋ることなんて
今までの人生でほとんどなかった。

そうこうする間に子供がいよいよ不機嫌になり、
息の荒い二人は一時休戦をした。
父は自分の部屋に戻り、私は子供をあやした。

しかし私はどうしても納得が出来ず、
♭シレファバージョンと
G7バージョンをおもちゃのピアノで
弾き比べてみたが、
やっぱり自分が合っている気がする。

しばらくして平熱になった父がやってきて
「お前の言う方で合ってると思う。
ただ、3小節目の4拍目は一旦G7になって
次に続いていると思う。」
と言う。
たぶん自分の部屋で動画を見直していたのだろう。

ここにきてまさかの妥協案を提示してきた。

結果、4拍目がG7ということで
終戦協定を結ぶはこびとなった。
私の意見を一度飲み込んで反芻してくれた
父の方が人間的に大人だなと感じた。

「明日また動画を見て確認してみよう。
明日の楽しみが増えた。」
そう言って父はまた自分の部屋に戻っていった。


完全に、久々に娘とたくさん喋れて満足した顔だった。
私も妙に清々しい気持ちになり、
なんとなく和牛さんへの好感度がさらに上がった。

そして父はさらに気分がよくなったのか、
「この曲の楽譜を作って〇〇さん(旦那の父。ギターはそれほど弾かない。)に送って弾いてもらおう。」
などとお義父さんに対して
わけのわからないマウントをとりはじめたので、
すぐ調子に乗って暴走する性格も
私にそっくりではないかと
清々しさが消失してしまった。










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