意味が、わかりません

「ハ?」

俺の耳は今、実に信じ難い言葉を耳にしてしまてっいた。
いいや待て。これはきっとあれだろう、寝不足。そう、寝不足。つまり寝不足からくる聞き間違い、もしくは幻聴。
なにせ突然押し掛けてきやがったオトモダチ様のせいで仕事がはかどらず、睡眠時間を削っているのだから疲れだって溜まるというものだ。

そう、つまりだから今のはきっと、

「どうした聞こえてないのか臨也。一緒に風呂に入ろう」
「…………」

頭が痛くなる、というのはこういうことなんだろうか。
そして俺の思考は数分の遮断を余儀なくされることとなる。


※※※


「ええと…遠慮、しておくよ」

若干の混乱からどうにか平静を取り戻した俺は、咳払いをしてからゆっくりとかけていた眼鏡を外した。
そして顔を上げてみればオトモダチ様こと津軽くんは相変わらずの無表情に、どこから取り出したのかわからない(しかし確実に俺のものではない)所謂お風呂セットを片手に立って俺を待っていらっしゃるようなのだからもうわけがわからない。

「何故だ?」

すかさず聞き返してくる津軽は意味わからいと言わんばかりに眉を寄せている。
むしろこちらが何故成人男性が揃いも揃って一緒に風呂に入らなければならいのかと眉を寄せてやりたい。いや寄せているけど。
ちなみにもっと言えばあまりのわけのわからない提案にうっかり手にしていたティーカップを落として床は勿論、スボンが大惨事なことにも眉を寄せている。
熱い。平気な顔をしてみせてはいるけど淹れ立てのダージリンは凶器だ。繰り返すが熱い。そう、物凄く。

「それに臨也は今どう見ても服の着替えが必要だろ?どうせ脱ぐなら風呂にも入ればいい」
「あー…うん、いやまぁそれはそうなんだけどさ」

気付いているなら(いやむしろ気付いていない方がおかしかったわけだが)布巾の一枚でも持ってこいよ単細胞と口にしなかった俺はきっと偉い。

「だいたい男2人で、って異様じゃないかな…まず女同士でも異様だと思うんだけど」

しかしながら至極正論を述べたはずの俺に津軽は今度はやれやれと言った様子で肩をすくめた。

「わかってないな臨也。腹を割って話すにはまず裸の付き合いが定番だろ?」
「ハァ?!」
「ほら、早く」
「え、ちょっと離せって!え?ハァ?!ちょっと?!!!」

そうして問答無用とばかりに襟首を掴まれ浴室へと引きずられた俺の悲痛な叫びが深夜のマンションに響き渡ったわけだが勿論助けなどくるわけもなく。

決して狭くはない浴槽の中で、演歌をこぶしをきかせて歌いあげる津軽と無心で100まで数える俺の姿があったのかなかったとか。




づく…?





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