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※シリーズについて補足※

クレーンゲーム 2014/7
2014/07/27 21:17

全てを蕩けさせる勢いで燃え盛る太陽が真上に登っている、土曜日の真昼間。
そんな太陽を避けるために入り込んだゲームセンターのクレーンゲーム機の前で悟空は立ち尽くしていた。
目の前には大好きなキャラクターを象った人形が所狭しと並んでいる。
ため息をつくと悟空はもう一度財布を覗き込んだ。
出かける前には確かにあった3千円は、今はもうない。悉く硬貨へと変化しクレーンゲームの中へ吸い込まれたのだ。
何度目かに止めようとも思った。
所詮ゲームだ。何度チャレンジしても絶対に取れる保証はないーーー
ただ、その頃には既に千円程がクレーンゲームへと投資されており、悟空も後に引ける状態ではなかった。
そして、有り金を全てクレーンゲームへとつぎ込んでしまったのだ。それによって得られた物といえば、凄まじい敗北感と後悔だった。
そして今、正に言い知れない感情を胸に抱いたまま、悟空はクレーンゲーム機の前で立ち尽くしていたのだった。

「おい、しねぇのか?」
「え?あ。」

不意に声をかけられた。
驚いて振り向くと、金髪の青年が何枚かの小銭を手に悟空を覗き込んでいた。

「やらねぇんだったらどけ」
「あ、ゴメンナサイ。どーぞ」

素直に謝って操作盤の前を退いた。
ゲームをしない者がいつまでも操作盤の前に突っ立っていたらどうしても邪魔だ。
しかし、そのまま立ち去るのもなんだか心残りがあって、悟空は斜め左、クレーンゲームが見える位置へと落ち着いた。

悟空がプレイしていたクレーンゲームの中の人形はかなり大きい。
対してクレーンゲーム機のアームは細く、頼りない気がする。
だから悟空はプレイの最中、ずっと人形の首もとにアームをかけようと奮闘していた。何度かそこへきちんと入ったのだが、何故か良い具合に止まらず、するりと人形は抜けて行った。
彼はどうやって人形を取る気だろう。
金髪の青年はじっと人形を見つめると、徐にレバーを横に倒した。
するとどうだろう、悟空が一度も気にしなかった人形の足の部分から出ていたタグにアームの爪を絶妙なレバー捌きで食い込ませ、そのまま落とすこともなく、あれよあれよという間に人形はホールへと滑り落ちて行った。

「…すっげー…!」

自分が3千円使っても取れなかった人形をたった100円で取っていった青年へ賞賛の眼差しを向ける。
青年は屈んで人形を取り出し、暫し人形を見つめると、ズカズカと悟空の前へ歩み出て、ずいっと人形を悟空へ差し出した。

「…え?」
「欲しかったんだろ。やる」
「え?えっ?何で?あんたも欲しいからゲームやったんだろ?」
「違う。こういうのは取るのが楽しいんだよ。人形に興味ねぇ。」

ぶっきらぼうに告げられる。
更に迷っていると、彼に手を取られた。ふんわりとした人形を乗せられる。おずおずと人形を受け取った
。ちらりと見上げると、彼はとても満足そうな表情をしていた。安心した悟空はにっこりと彼に笑いかけた。

「マジでいいの…?本当はめっちゃ欲しかったんだ。ありがとう!」
「今度から欲しかったら俺に言え。最小限の金で取ってやるよ」
「ありがとう。俺、悟空」
「三蔵だ。」

ぶっきらぼうな彼と携帯の番号を交換した数日後、悟空がたまたま見た雑誌に、クレーンゲーム大会の優勝者として三蔵の名前を見つけて、更に吃驚した。
窓際に置いている人形だけが変わらず笑みを湛えていた。


2014年7月。
クレーンゲームのめっちゃ上手な人をリアルで見た衝撃のまま綴りました




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