037 生命線
2016/05/17 22:04

「あ、意外と短い」

襲撃された。三蔵はそう思った。
コーヒーを取ろうと新聞に目を落としたまま手を伸ばしたら、その手は目標物を捉えることなく逆に空中で捕まえられた。そんなことをする奴は世界広しといえど1人だけで。「何すんだ」と短く警告のつもりで呟いてもその猿はどこ吹く風。三蔵の手のひらをまじまじと見たと思ったら、冒頭の言葉である。
「何がだ」
振り払うといとも簡単に解放された。悟空は特に意に介したふうもなく、三蔵の隣へと座り込む。
「生命線。三蔵いっつもアームカバーしてるから見えなかったんだけど」
「生命線?」
怪訝な声を出すと、待ってましたとばかりに彼は声を弾ませた。
「うん、生命線。ここ、親指の隣のグーってなってる線!これ生命線って言うんだぜ!」
「…ふーん」
この上なくくだらない。たかだか手のひらの皺くらいで己の人生が分かってたまるか。もうこの話は終わりだとばかりにコーヒーを取ろうと立ち上がる。

その瞬間。

「俺と同じところで切れてる」
それまでとは全く違う、真剣な声で彼が言うから。つい柄にもなく呟いてしまった。
「…同じ瞬間に死ぬのかもな」
すると彼は、一瞬キョトンとした後。「それって、すげー幸せ。」
極上の笑顔になった。






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