036 さくら
2016/01/25 14:46

大きくあくびをした。こんなに眠ったのは久しぶりだ。すっきりとした頭には長い睡眠特有のだるさとか痛みなどはまるでなかった。
猫のように背を伸ばす。伸ばしっぱなしだった後ろ髪がパサリと音を立てて地面に落ちた。そして、待ちかねたように髪へ、それから体へと音もなく桜の花びらが降ってきた。
ずつと待っていた。
こっそりと唇に乗せる。次いで、まるで祝福のように降り注ぐそれを目を閉じて甘受した。
こうしていると彼を思い出す。
どちらかというと言葉少ない彼だったから、記憶の淵から蘇ってくるのは、彼の形の良い唇からのびた煙草の煙の形と匂いとか、すっとしているのに意外にタコが出来た指先と銃だとか、しなやかで細い体が動くたびに法衣から漂ってきた白檀の匂いだとか、とにかくどれを取っても視覚と嗅覚に刻まれているものが多かった。
長い間共にいたからこそ、それこそ刷り込みのように彼を記憶しているのだ。
共にいた時は長いようで短かった。今思い返しても良い思い出ばかりではない。ともすれば良いものより悪いものの方が多かった気もする。しかし、出来事に対して良かったか悪かったかは別にして、幸せだったか否かを問われると答えは一つだった。
幸せだった。

だから、あなたにもう一度会うために。

眠りから覚めた悟空は立ち上がった。魂の片割れを探すために。


end


すんごい久しぶりに小説書くのでリハビリ的な短さ



prev | next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -