愛を踊る(アレク×シルヴィア)

まもなく訪れるであろうシレジアの春。その季節を待ったかのようにレヴィンとフュリーの婚礼が行われる。
いくさに巻き込まれ、たくさんのものを失った民達と、シグルドを含め仲間達はめでたいと大いに湧き、活気づいた。
セイレーンのまだ雪が残る中庭で、鈴の音と土を軽く叩く音がする。飾り布が揺れ、緑の髪が揺れ、踊る。

シャラ、ラン、

ト、タタン、タン、

タン!

あ、と声を漏らした。その途端に鈴の音も消える。
「韻踏むの、間違えちゃった・・・」
シルヴィアが残念そうに声をあげた。婚礼に合わせて祝いの舞を披露する、その練習をしていたのだった。それに付き合っている、というより見守っているのはアレクだ。
「珍しいな、韻を間違えるなんて」
「うん。あー・・・間に合うかなあ」
婚礼の儀は迫っている。それまでに踊りを完成させなければならないのに、どうにも上手くいかない。きっと慣れない場所と、かしこまった環境のせいだ、そうシルヴィアは思った。何せ普段踊る場所といえば、賑やかな酒場か、大道芸集まる公園か、・・・あるいは戦場。かしこまった婚礼の儀の場でなんて踊るのは始めての事で、しかもそれ用に衣装まで用意されているとは。確かにいつもの縫い目が目立った格好で踊るのはちょっと気が引けた。
「シルヴィア、少し休憩するか?」
「・・・うん、そだね」
ちょっと疲れたかも、とシルヴィアが呟いた。アレクの隣に移動してんー、と背伸びをしたあと、はーとまだわずかに白い息を吐いた。
二人は無言のまま、ただどこかを眺めていた。アレクは何も喋らなかった。ただ無言で目を閉じている。シルヴィアはそれを見てかっこいいなと思った。そしてちくりと心が痛む。アレクはあの人とはまったく違う、けれど、不意に似ていると思ってしまう。もう割り切った事なのに。今は目の前にいる彼が、恋人なのに。
「どうした?」
シルヴィアの視線に気付いたのか、アレクはシルヴィアに問いかけた。シルヴィアはあわてて何でもないと取り繕うも、アレクは鋭い、何かを察した。
「・・・レヴィン、か?」
その名前を口にした途端、シルヴィアはひくり、と肩を震わせた。
「・・・」
「当たりだな。・・・まあ、人の心はなかなか治らないしな」
「アレク、あのね・・・」
「ま、仕方ないか」
そう言ったアレクの顔はひどく寂しそうで、ふと、アレクに告白された時の事を思い出した。あれは、レヴィンはフュリーを見ている、それを知ったその後で、シルヴィアは失恋のむなしさと寂しさをまぎらわす為に無我夢中で踊っていた時の事。アレクがやってきて、シルヴィアを抱き締めてこう言った。


あいつの代わりでもいい、俺と恋仲になってくれ


その言葉は不思議なことにシルヴィアの心にするりと入り込み、ずるずると引きずって、今に至る。
思えば、自分の態度がどれだけアレクを傷付けているのか、良くわかる。

アレクは私を愛してくれている。優しい言葉や態度を示してくれる。戦いの時だって、率先して私を守って前に出てくれている。

でも、私はどうだろう。私はあの人の代わりでもいい、という言葉に甘えていただけではないか。言葉にもせず、態度にも示さず。ただ甘えていた。

それで愛を踊るだなんて出来やしない。

レヴィンとフュリーにも、そして今ここにいるアレクにも失礼じゃないか。シルヴィアはぱちんと二度頬を叩いた。そして、隣にいるアレクに抱きついた。これにはアレクも驚いた。突然のシルヴィアの行動にどうしたらいいか分からず、しかし拒む事はせず、シルヴィアの背中に手を添えた。
「アレク」
「ん?」
「私、もう過去を見るの、やめた」
「ん?・・・ああ」
「ごめんね、私、アレクに甘えてた」
「・・・」
シルヴィアの抱きしめる腕に力がこもる、それに応えるようにアレクも抱きしめる力が強くなる。
「ひどい女だった、私」
「そんなこと無いさ」
「ううん。・・・もうアレクしか見ない、ずっとアレクの傍にいる。大好きよ、アレク」
「シルヴィア・・・」
彼の傍にいて、ずっと彼を愛しよう。込み上げる感情は苦しくても暖かい、これが愛情なんだと感じた。
「俺はシルヴィアをずっと愛してるよ」
「・・・うん」
二人はしばらく抱き合っていたが、シルヴィアが離れるとその唇がアレクの頬に音をたてて触れた。一瞬の出来事にアレクはぽかんとした。シルヴィアはふふっと笑った。今なら、いや、これからなら踊れるかもしれない。

「さて、練習しなきゃ!アレク、見ててね」
「ああ、目かっぽじって見てるよ」



さあ、愛を踊ろう。

愛する人達のために。




あとがき
久々の更新です。あれ?こんなはずでは・・・
でも、なんか上手く書けた気がします。
アレクとレヴィンって似てますよね。イラストで描こうとすると、レヴィンがアレクに、アレクがレヴィンになります。
何でだろう・・・

2016/9/9 マリ


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