夢
「百合」
夏目に呼ばれて振り返る。
いつもの教室。
いつもの幼馴染み。
いつもの自分。
そのはずだった。
なのに。
目の前のこの状況はなんだ。
「百合…た、すけ…て」
「っ!夏目!」
目の前では大切な夏目が、幼馴染みが薄くなっていく。
「な、夏目!」
「寒い…百合、寒い…」
そう言いながら、徐々に夏目の体が透けていく。
私は『力』を使ってどうにかしようとするけど、どうにもならなくて。
初めて自分を無力だと思った。
泣きたくなった。
大切な幼馴染みぐらい守れなくてどうするんだ。
助けられなくてどうするんだ。
この『力』を受け継いだ時、どんなことがあっても、もう誰も死なせないと誓ったではないか。
「夏目!夏目!!」
手を伸ばしても、もう届かない。
夏目はどんどんこの世界から消えていく。
そして最後に一筋の涙を流し、完全に世界からいなくなった。
「夏目っ…うぁあぁああぁぁあぁあぁぁあ!!」
そんな自分の絶叫で目が覚める。
勢いよく起き上がると、まだ夜のようで外が暗い。
汗が気持ち悪い。
大きくため息をつき、水を飲みにリビングに向かった。
きっと明日には元気な夏目に会える。
そう信じて。
夢(いつもより早く学校に来れば)
(いつものように笑うあなたがいて)
(少し怖気づいて声をかけると)
(変わらない笑顔で『おはよう』と言ってくれた)
(その言葉を聞いて廊下に駆け出し)
(声を殺して泣いたのは、誰にも言えない)
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