■ 貴方の好きなひと。





ピッ、ピッ、ピッ、ピッ



規則正しく音を刻む音で、目が覚めた。

独特のにおいと白い天井。病院か。




あれ、俺さっきまで土方先生から逃げてたんじゃなかったっけ。



いつのまに?



腕に綺麗にまかれた包帯を見つめて首をひねっていると、




「………う…ぅん」


足元からうめき声が聞こえて死ぬほど驚いた。

飛び上がりそうになるのを抑えて恐る恐る見てみると、そこにはつやつやした黒髪……………なんかじゃなくて。


綺麗な茶色の髪が、俺のベッドにもたれかかっていた。





「………あら?あ、もう起きたのね。ごめんなさい私ったら………」


パッと起きてきょろきょろする彼女は、間違いない。



ミツバさんだ。





なんとなくバツが悪くてうつむくと、具合悪いの?とのぞきこまれてしまう。





「あの、俺……」

「さっき倒れちゃったのよ。もともと血が足りてなくて、急に走ったから貧血になっちゃったらしいわ」



ということは、俺を助けてくれたのはミツバさんなんだ。



先生じゃなくて。


っていやいやそれはしょうがないだろ。今はそんなことよりすることがある。





「……すみません、さっきは、失礼なことばっかり」


本当に謝罪の念を込めて、深く頭を下げた。




あんな自分勝手な思いで自分勝手に行動して。挙句の果てに逃げて倒れて。

自分がまだまだ子どもだってことを思い知らされたみたいだ。



「……ねぇ、坂田さん」


その声音は、俺に対してどんな思いでいるのかわからない。

うつむいた顔が上げられない。







長く長く感じた一拍後、ミツバさんの綺麗な手が俺の頬を思い切り打った。








ここ一週間で以上にやせ細った体は、その衝撃をそのまま身体に伝えてくる。

じんわりと頬が赤くなったのがわかった。




「ごめん……なさ…」

「私に謝らないで」


その言葉は、叩かれた時より俺の心を深くえぐる。だって、こんなの謝る以外出来ないじゃないか。それすら許されないなんて。

そして、ミツバさんはこんな俺より何十倍も傷ついた顔をしていて、それが一番胸が締め付けられる。



当然だよな、恋人を寝盗ったんだから。













「謝るなら、十四郎さんによ。――――――こんな傷。自分でやるなんて」

意外と力強く腕を引っ張られて、服をまくられた。そこにあらわれるのは無数の線の傷。


「別に、こんなのは………」

「こんなのなんて行っちゃダメ」


腕を、さっき俺を叩いた手で慈しむようになでられた。
寝盗ったことに怒ってるんじゃない、のか………?


「さっきは叩いてごめんなさい。私、あなたに怒ったわけじゃないのよ。あなたにもっと自分を大切にして、って、言いたかったの。自分をぞんざいに扱うなんて、自分自身にも、十四郎さんにも失礼だわ」


そう言って、首にかけてあったネックレスを俺の手に置いた。



「これ、私が欲しいって言ったの。十四郎さんが好きなひとと、せめて同じものつけたくて」


勝手だったわね、返すわ、と続ける。


「十四郎さん、ずっとあなたのことばかり話してるんだもの。電話でもずっとよ。今までで一番嬉しそうに」

「え!?だって……」

「……最初は少し妬いちゃったけど、話を聞いてて本当にいい子なんだな、って、私まであなたが大好きになっちゃたの」


え、正面からの告白なんて、意外と照れるな。

………じゃなくて。先生が?は?ウソでしょ?





「十四郎さんも最初は渋ってたんだけど、あなたにはもっといいものあげるらしいから、買ってもらっちゃたのよ」

「もっといいもの?」

「ええ、すごく」



  







そう言って、ミツバさんは病室のドアを少しだけ開けて外に呼びかけた。


「坂田!」

「先生!?」

「よかった、お前、元気そうで………」


はぁぁぁぁ、といつもの冷静な先生からは考えられないくらい情けない表情で息をついてる。
………なんか耳と尻尾が垂れてる気がするんですけど。



「十四郎さん、ごめんなさいね、無理言って二人にしてもらって」

「ああ、いや、もういいのか」

「ええ」



病室を出ようとしたミツバさんは、俺の方を少しだけ振り向いて微笑んだ。



「二人とも、幸せになって下さいね」



なぜか笑っているのに泣きそうな顔をして、ミツバさんは病室を後にした。













「坂田、体調はどうなんだ」

「あー……今はいいかも」

「なんでもっと早く言わないんだよ………」


そういって俺の傷だらけの腕を額に押しつけて、さっきよりも重い溜息をつく先生。


「…いや、待ってた俺が悪かったのかもな………」

「え?何が」

「卒業まで我慢しよう、って思ってたんだけどさ、これ」



ミツバさんのネックレスを持ってる反対の手にちょん、と、乗せられたかわいい小箱。


もしかして、と目を見開く俺の顔に手を添えて、優しい優しいキスをくれた。




「ミツバさんが言ってた『もっといいもの』って、これだったんだ………」

「あいつ、そんなこと………」


口元に手をあてて照れる先生につられて、俺まで体温が上がってくる。

今日は先生の一面どころじゃなくって、二面も三面も新しいところを見てるなぁ………。




「ね、開けていい?」

「あ、ああ」



ゆっくりふたを開けると、そこには予想通りのものがあった。









キラキラ光る、指輪。










なんか胸が詰まっちゃって無言でいると、やっぱり選びたかったか?とか、気に入らなかったか?とか困ったような声が上からあわあわと聞こえてきた。


今までの不安なんか吹き飛ぶくらいの卒業祝いをもらって、気に入らないわけがないじゃないか。

これからは先生、じゃなくて、十四郎って呼ぶべきかな?





それでもまだまだお子様な俺のありったけの想いを、先生の唇にぶつけてやった。












*******************

ごちそうさまです!!
いやー、ハピエンですよ☆
ミツバさんええ人やなp^


たるた様、有難う御座います。

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