これにて閉幕


 街の商店街の先にある小さいレトロなカフェはその日、普段の穏やかな雰囲気を一変させ、並々ならぬ緊張感を漂わせていた。
 
 本来なら多くの客で賑わいを見せる夜の7時に、店内にいるのは僅か数名。
 テーブルがいくつか並べ、それを囲っている一団体だけ。
 
 その者達の浮かべる表情は実に様々なのだが、店内を支配するピリピリとした空気は紛れもなくここから発せられていた。
 
 彼らを不安そうに眺めるまだ年若い店長を安心させるように笑いかけたのは、この会の主催者である紗衣だ。
 
 紗衣以外にいるのは、この街では有名な青年ばかり。
 足を組んで気怠そうにしている須藤、へらへらと笑っている桐原、興味無さそうに携帯を弄っている和真と珍しそうに店内を見渡している大和。
 
 更に言えば後ろに控えている須藤の連れの山野井に、姿は見えないが紗衣の護衛の環と椿もいる。
 
「しっかし、この店は? 紗衣の根城?」
「変な言い方しないでください。ここは……わたしのボスが経営してる店なんで、今日は無理言って貸してもらったんです」

 ボスね。
 意味ありげに口の端をにんまりと上げる桐原から目を逸らす。
 あまり深く突っ込まれたくない話題だ。
 
 ボスとは、紗衣が不良と関わり合いになる現況を作った人の事。
 定期報告をする際はいつもこの店だった。
 だから従業員達ともそれなりに仲が良く、多少揉め事が起こったとしてもここなら大丈夫だろうと踏んで選んだ。
 
「そんなこたぁいいんです! それよりも今日の本題に入りますよ」

 内心汗を掻きながら紗衣は話を始めた。
 
「南が無くなって逆に大和達が最近は勢力をつけてきた事で、今では三つのチームの均衡が取れて安定しています。つまり!」

 ダァン、とテーブルを叩いて力む。
 
「私がこの世界から抜ける絶好の良い機会! なわけです」

 言い終えて紗衣は咳払いをした。
 全員が無言のまま彼女を眺めていたがやがて。
 
「え、なんで?」
「そう簡単にいくかなぁー」
「馬鹿が」

 帰ってきたのは否定ばかり。
 
「何ではこっちのセリフですが!? え、だってそうでしょ? 須藤さんやキリさんがヘマするとは思えないし、大和と和真くんだって人数増えても上手く手綱引いていくだろうし。だったらわたしもういらなくね!? 用無しっしょ!?」

 この街から不良を一掃してほしい。
 そういう要望もとい命令により紗衣は動き出した。
 
 だが蓋を開けてみれば、根絶するのは最早不可能なほどに、彼らの存在はこの街を侵食していた。
 それならば、と中でも勢力の大きいチームに掛け合って、自らの手で不良を押え込ませようとした。
 
 紆余曲折はあったものの作戦は概ね上手くいき、今こうしているのだ。



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