割と狭い部屋の中央には向かい合わせにソファと、その間にローテーブルが設置されている。
 ドアに背を向けるようにソファに座っていた人物にドキリと心臓が跳ねた。
 
 その人物がゆっくりとこちらを振り返った。
 
 漆黒の長い前髪の合間から覗く、貫くような鋭い眼光がぴたりと私と合わさったところで止まった。
 あまりの威力に縫いとめられてドアの前に立ち竦む。
 
 蛇に睨まれたネズミ、なんて生易しいものじゃない。
 未確認飛行物体にロックオンされた赤ん坊だ。
 逃げ出す術がない。
 
 お願い、人体改造しないで!
 
 それは冗談にしても、目の前の彼は他者が萎縮してしまう威圧感を放つほどの美貌の持ち主。
 加えて荒々しい内面を隠そうともしない態度と、何よりも物語るのは眼だ。
 黒く変色した血のような、本能的に恐れを抱く眼。
 
 彼の名は西峨 唯(さいが ゆい)
 
「なん、なんで西さんがここにいるんですかあぁぁーー!!」

 ぴぎゃぁぁー!! 泣くかと思った! むしろちょちょぎれる!
 
 怖い、怖いよこの人なんでここいるの、西のトップのくせに東の拠点に居るとかフライング過ぎるだろ!
 西さんと対峙するにはまず小一時間ほど精神統一しなきゃ失神しそうになるのに!
 てかどう見たって寛ぎ過ぎだよね、テーブルから足退けなさい!
 
「ひが、東さんが迎えてくれると思ってたのに酷い! このギャップ、たえ、耐えられない……うえぇ、ショカさぁん」
 
 にやりと極悪スマイルかます西さんが恐ろしくてショカさんの後ろに隠れた。
 
 高校生にもなって人と対面するのが怖いと泣きじゃくる私をショカさんは優しく慰めるように支えてくれる。
 西さんが恐怖の大王だってのは不良達の中でも共通概念だから、一般人の私なんて本当、目合っただけで心臓つぶれちゃいそうだって分かってくれてるんだろう。
 
 東さんてばこんなメデューサ放っておいて、どこほっつき歩いてんのよ。
 無責任にも程があるでしょうが!
 



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