ある建物の側面にゆっくりとバイクが停まる。
 先に降りたショカさんは、私の脇に手を差し込んで持ち上げ、ひょいと降ろしてくれた。
 
 まるでお父さんが子どもにするような所作だ。
 私の二つ上のショカさんはいつも私を子ども扱いする。
 
「わぁカナちゃん暫らく会わないうちに重くなったね」
「やだぁ、ショカさんったらたった1年でクソセクハラオヤジになりましたねー」
 
 ばっちーん。
 背中に紅葉マークつける勢いで張り手を食らわす。
 
 こんにゃろ、年頃の女の子の繊細なガラスのハートに爪立ててギーギー不快な音鳴らすような真似して良いとでも思ってんのか!
 こんな事言う人じゃなかったのに! もっと紳士だったのに!
 
「立派な女の子に成長したねって言う意味だよ」
「それならもっと言い様があるでしょうがぁっ。『カナちゃん、君の瞳は百万ドルの夜景だよ』とか」
「目がちかちかしそうだ。うんまぁでも、電流よりよっぽど優しいとオレは思うよ」
「ひぃぃ、フォロー入れられると逆に恥ずかしいぃ」
 
 やめてやめて! そこは素直にツッコんで!
 そんな背中に紅葉散らしたの恨めしいのか。
 クスクスと柔和に笑うショカさんは全然怒ってないって伝わってくるけど、ちょっと疑ってしまう。
 
 
 着いた建物は、とあるバー。
 ショカさんと楽しいやり取りをしながら中に入る。
 
 
 不良が怖いのもあるし、ショカさんが言うように久しぶり過ぎて敷居が高くなってしまった事で緊張が増しているのを感じ取って、私の気分を落ち着けるために態とおどけたのだと今気付いた。
 
 ああもう、気遣いの出来る男か! どこまでもポイント高い人なんだから。
 
 ありがとうの意を込めて背中を撫でておいた。
 
 にしてもまさかこの人達が私に連絡をつけてくるなんて。
 もう私の事なんか忘れてるんじゃないかなぁと思っていたのに。
 
 中学三年の夏、受験生(当時はまだ地元の女子高に受験しようと決めていた)である事を理由に夜に出歩くのを一切やめた。元々、姉経由でしか私と連絡を取れないシステムにしてもらっていたのもあって、夏以降は中学卒業まで誰一人として会わない至って平穏な生活を送っていた。
 そしてそのまま高校の寮へと生活拠点を変えたので、ちょうど一年ぶり。
 
「それで急用って聞いたんですけど、私なんかに何かようかい、なんちゃって」
「全然うまくないよ、ていうか駄洒落にすらなってないよ?」
「あれれ」
 
 上手くいったような気がしたんだけどなぁ。
 なんかと何かを……ああ本当だ全然うまくない!

 とまぁ前置きはいいとして。
 
「堂島さん……お姉さんから何も聞いてない?」
「なにも。ただ急ぎの用だって」
「あの人らしい」

 姉を当てにしちゃいけない。これは暗黙の了解。
 
 彼女はあくまでも不良根絶のために動いていた人間だ。
 ただ全てのチームを潰してしまうと逆に無法地帯が出来上がってしまうから、トップに取り入って治安悪化を防止するよう口先三寸で約束を取り付けただけ。
 馴れ合いはしても、仲間ではありえない。
 
 だから、依頼をしてもそれを聞き入れてくれる可能性はそう高くはない。
 今回なんて私に対するお願いだって言うんだから、よくもまぁ聞き入れたなと正直驚いている。
 
 昔の事があるから姉も私が変に関わり合いにならないよう注意をしてくれているのだ。
 
「じゃあ奥でゆっくり話をしようか」

 バーを通り抜けて奥の部屋へと通された。
 物凄く嫌な予感がする。
 
 むしろ恐ろしい予感しかしない。




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