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 なんで俺、この人とコンビニ来てんだろう……
 
 たかだか数分間の道のりで、一体何回自問したか分らない。
 紗衣さんに「歯ブラシの予備切らしてるから、香苗の分と二本買ってきて」って頼まれて頷いたまでは良かった。
 
 なのに「タバコ切れたから一緒に行く」って彼氏さんが言いだしたせいだ。
 物が物だけに「じゃあ買ってきますよ」とは言い返せなかったせいだ。
 
 コンビニに着くまでの数分間の空気が、地獄のロードを突き進んでるくらいの重苦しさだったわ。
 少し前に知り合ったばっかの、堅気に見えない男と何話せっていうんだよ!
 白々しい、当たり障りのない意味のない会話でも始めようものなら、問答無用でその場に沈められるかもしれないだろ。
 
 ちらっと隣を盗み見ると、「ひぃっ!」って悲鳴を上げそうになった。めっちゃ見てる。こっちめっちゃ睨んでんだけどこの人!!
 
 俺なんかしたか!? なんか気に障るような事した!?
 隣歩いててすみません、三歩後ろに下がって無くてすみません、同じ空気吸ってて本当申し訳ありません!!
 
 紗衣さん、この人といつもどんな会話してんですか……
 
「西峨のこと、何か聞いてるか」
「へっ!?」

 突然話しかけられたせいで声が裏返った!
 しかも予想外な人の名前が出たし!
 
 西峨先輩? この人なんか関係……あるか。あるわな、同じ匂いするわ。兄弟だって言われても、諸々の違和感スルーして信じられるくらい雰囲気似てるわ。

 西だか東だか知らないけど、この人も不良やってたみたいだし。今の教師っていうのよりよっぽどしっくりくるよな、不良。むしろヤクザってほうが合ってるくらいだ。
 
 でも何でいきなり西峨先輩の話が出てきたのか分らない。
 
「中学ん時に香苗と何があったか聞いてないか」

 香苗!? 呼び捨て!?
 ああいや、恋人の妹だしそんな変な事でもない……けどこの違和感っていうか衝撃はなんだ。
 逆に須藤さんに『香苗ちゃん』とか言われたらその方が気持ち悪いけど。
 
 他の事に気を取られてポカンとしている俺を、感情の読み取れない表情のまま須藤さんが見ていた。
 
「何も、聞いてないですけど」

 西峨先輩や高鳥と何かあったんだろうっていうのは、見ていれば分かったけど詳しくは何も聞いていない。
 堂島もあんまり話したくなさそうな感じだったし。
 聞いて、あいつらの繋がりの深さなんて知っても面白くない。

 俺のそんな考えを読んだように、須藤さんがタバコを咥えた口の端をニヤリと上げた。
 
「タバコ、まだあったんですか」
「最後の一本」

 ああ、そうですか。
 
「高鳥歌生、知ってんだろ?」
「……それが何か」
「香苗と仲が良いんだってな」
「さっきから何ですか、何の嫌がらせですか」

 一人一人、堂島と仲が良いヤツの名前出していってどうしたいんだ。いや俺で遊んでんだろうけど!
 思惑通りに反応してやるものかと思うけど、そんな風に意地になっている事自体がこの人の思惑に嵌められている気がする。
 
「紗衣に、お前を焚きつけて来いって言われたんでな」
「……そっすか」

 隠せてるとは思ってなかったけど、紗衣さんにはバレバレだったんだな。
 ほんと、顔そっくりなのに堂島と真逆で察し良過ぎだろ。
 
「西峨はこっち戻って来るし、高鳥は同じ学校。ちょっとは焦った方が良いんじゃないか?」
「焦って! ますよ」

 十分なくらい。でも肝心の堂島があの通りだから、伝えようにも伝えられない。
 いや、あいつのせいにするものじゃないってのは分かってるけど、もう少し手応えというか、向こうの気持ちを分ってからにしたいって思うだろ、普通。
 
 もしタイミング見誤って、前みたいに気まずくなるのも嫌だし。
 告白して断られた後、まだ暫く同室で一緒に過ごすって結構過酷だよな。そう思ったら尻込みする。
 
 いや待て、もし告白して付き合う事になったら、同室で夜も……
 


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