▼page.2 あの時とは完全に逆だ。 堂島に逃げられたくないとか言ったくせに、今は俺が堂島を避けている。 日増しに強くなっていく刺さるような視線を受けているのは気づいているけど、正面から堂島を見れなくて、結果距離を置いてしまっている状態が続いていた。 こうなってやっと気づいた。きっとあの時の堂島も同じような気持ちだったんだろうと。俺と堂島じゃ、気持ちに差があるから、全く同じってわけじゃないにしても、相手の反応が怖いと言う点はきっとそう。 完全な八つ当たりだった。 堂島の態度がぎこちない理由が分らないのと、口を開けば平良の名前が出て来る事に苛立って、それをそのまま堂島にぶつけた。 堂島が何で挙動不審だったのかは、確かに気になったし理由が分からないから不可解ではあったけど、それは別にもう良かった。 少しすれば元に戻ると堂島も言っていたし、俺が原因じゃないようだったから、まぁいいと思った。 それよりも手を振りほどかれた方がよっぽど堪えた。 平良にになら安心して身体ごと凭れ掛かれるのに、俺は少し触れるだけでも嫌なのか。 そう思ったら、堂島を追い込むように問い質して、怖がらせて泣かせた。最悪だ。 寮の自販機にお金を入れながら、深い深いため息を吐いた。 ここに来ると嫌でも思い出す。 頑張るんじゃなかったのか。平良よりも、堂島の傍にいるのが当たり前な存在になるって大見得切ったくせに、俺は何をやってるんだ。 飲み物の表示を見ながら頭では全然違う事を考えているせいか、人差し指が彷徨うばかりで何を買うか決まらない。 「何やってんだか」 ピ、ガチャン 呟いたと同時に、ボタンが押された缶コーヒーが落下した。 取り出し口に勢いよく出てきた商品を手に取ったのは、俺じゃない。ていうか、俺何も押してないんだけど。 「あの」 俺の金で堂々とコーヒーを買った人物に声を掛けると、身体を屈めていた相手は下から覗き込むように睨みあげてきた。 「あ?」 低い、たった一文字しか発していないのに、どうやったらこんなに威圧的になれるのか不思議で仕方ない。 黒髪から覗く、独特の色味の目が蛇のようだ。本能的に竦んでしまう。 いや、何で俺が睨まれなきゃいけないんだ。俺が怒っていい所だよな、今。 そんな勇気があるかって言われたら、まぁないけど。 「いいタイミングだな、イケメン」 何の断りもなく、当然のように缶のプルトップを開けてコーヒーを口に含んだ西峨が、ニヤリと口元を歪めた。 別に大したリアクションでもないのに、この人がやると様になる。 服装だって、ボアつきのグレーのパーカーに、黒のフリースズボンという、どっからどう見てもただの家着なのに、着こなし感が滲み出てるのはどうしてなのか。 弘法筆を選ばず。西峨服を選ばず。 「何ジロジロ見てんだイケメン」 さっき一回無視したけど。……イケメンってもしかしなくても俺の事か? なんだ嫌味か。馬鹿にしてるのか。 男から見て完璧にカッコいいと思う理想の外見してる奴に言われたら腹立つな。 堂島は、外見は好みの問題があるから誰が一番かなんて甲乙つけがたいだとか言ってた事が有るけど、目の前の西峨は文句なしにダントツだと思う。 どんなに見た目が良くても、怖いものは怖い。 堂島抜きでこの人と一対一で遭遇したのは初めてだ。なんやかんや言いつつ、あいつはこの人とも気さくに喋ってるから、もしかして噂ほど怖くないんじゃないかって勘違いしてたわ。めっちゃ怖ぇ。普通にしてるだけなんだろうけど、いつ殴られるのかってビクビクする。 沖汐もだけど、アイツ等の心臓どうなってんだよ。鋼鉄で出来てんじゃねぇのか。何でこれに耐えられるんだ。 前 | 次 戻 |