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「まぁまぁ稔さん、過ぎた事はいいじゃないですか」
「いいわけあるか! 俺の与り知らない所で俺が汚されてたんだろ!?」
「ああうん、そうなんだけど」
「否定しろ!!」

 会話の内容にドン引きしながらも私の手は振り払わない稔本当に男前だよね。
 腐要素は認められないながらも、それが原因で私自身を否定したりしない稔に惚れそうです。ええ男や。
 そして嫌われていないと分かった瞬間に調子に乗り出す私。
 
「でも稔、男の人も好きな子とか女優さんとかをオカズにするんでしょ?」
「なっ、おか……っ」
「おんなじようなものじゃないのかなって思うんだけど」
「違うだろ!」
「どう違うの?」
「あれはっ……その、……」

 あ、稔が撃沈した。がくっと肩を落として俯いてしまった。
 デリケートな問題だったのかな。生理現象的な事は大体は分かるんだけど、私も一応女なので、男の子の心理まではよく理解出来ない。
 
 東さんとかは私の前でも猥談まがいの事を普通に話すので、デリカシーねぇなこの男、と内心罵りつつも、こんなものかと思ってたんだけど、稔は違うみたいだ。その方がいいけどね。
 
「あーもう何でこんな話になってんだよ」
「男と女の心理の違いって奥が深いね、生命の神秘だね」
「いいや、そんな大きい話はしてなかった」

 騙されてくれなかった。
 俯いたまま目だけをこちらに向けてジロリと睨んでくる。そんな稔のイケメンです。
 
「とにかく! 今後一切オレで想像だか妄想だかは絶対すんな」
「…………」
「返事をしろ。しないと友達やめる」
「ぎゃー! いや、それだけはイヤ!! 稔に嫌われたら私生きていけない!」

 ぎゅうっと稔の手を強く握る。離してなるものかと。
 涙目になりながら縋るように見上げると、稔は驚いたように目を見開いた。
 そのまま固まってしまった稔に首を捻る。
 
「なんで驚くの。そうじゃなかったら昨日から稔に嫌われる想像だけで泣きそうになってないよ」
「いや、隠し事がバレてテンパってただけかと」

 テンパってたのもあるけど。それだけであそこまで弱ったりしないもの。
 例えばバレたのが時芽や基だったとしたら、私は絶対ここまで怖がって逃げたりしてないと思うんだよね。
 
 ヤッベェ!! って冷や汗ダラダラかいてどう切り抜けようか、その場で解決しようとしてたと思う。
 別に基達に嫌われても構わないというわけじゃないんだけど、稔は特別だから。という事を一生懸命伝えた所、稔がみるみる顔を赤くして狼狽え出した。
 
 お、なになにその反応。すっごい可愛い。
 覗き込んで間近から見ようかと一瞬考えたけど、そんな事したら本気で嫌がられそうな気がしたから止める。
 
「ホントの事言えば、ボーイズラブ、だっけ? ああいうのは気持ち悪いと思うし受け入れられない。最初っから堂島が腐女子だって知ってたら友達になれ無かったかもしれない」
「……うん」
「でも今更、そうだからって堂島の事嫌いになったりしねぇよ。知る前と何も変わらない」

 稔は言葉を探すように視線を彷徨わせた。

「だから、……だから堂島も俺に嫌われたくないって思うなら、今後は俺でそういうのは無しだ」
「…………」
「おい、堂じ」
「稔ってばほんっと男前やああーっ!!」

 堪らず彼に抱き着く。横に座っている稔に抱き着くのは体勢的に苦しいけど気にしている余裕はない。しがみ付く私の頭をポンポンする稔。
 なんだこの包容力。友達思いにも程があるでしょう。稔の心が広すぎて兄貴って呼びたくなる。もう一生ついてく。

「分かった。稔で妄想したりしない。身を切られるようだけど」
「そんなに?」
「依澄と同じ禁止カテゴリーに入れとく」

 仕方ない。稔の妄想の為にこの学校に入学してきたようなものなのに、まさかこんな日が来るとは予想だにしなかったよね。
 けど友達失くす事を思ったら安いものだ。
 
「平良? も、バレてるからか?」
「うんにゃ。あの子は好きな人がいるって知ってるからだよ」
「はっ!? 平良が好きなのって、いや、違うのか……?」

 片手を顎に添えてブツブツと何か呟いてる。そんな姿でさえサマになっちゃう稔のイケメンっぷり。
 依澄に好きな人がいるのがそんなに意外だったのかな。まぁそうだろうね。
 あんなポヤポヤちゃんでも青春はしてるんだよ。アミーゴだよ。
 
「つーか、それなら尚更俺も除外だな」
「え、稔好きな人いるの?」
「……まぁ」
「そう、なんだ」
 
 女嫌いだとか言っておきながら、ちゃっかり好きな人は作ってるんだ!?
 なになに、誰よ。私の知ってる人!?
 
 とか、聞きたい気もしたんだけど、同じくらい聞きたくないとも思ってしまって。
 結局曖昧な返事しか出来なかった。きっと今私の顔はとても間抜けになっていると思う。
 
 なんでだろう。すっごく面白くない気がしてしまうのは。
 
 稔が一番気を許してくれている女の子は私だって思ってたからかな。
 なにそれ。なんだかヤキモチ焼いてるみたいだ。
 
 せっかく稔とギクシャクしないで済んだはずなのにモヤモヤする。
 これじゃまるで私が稔の事好きみたい、な
 
 みたいっていうか。
 
 え、えぇ!?
 



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