▼page.5 「さーむいぃー!!」 現在23時43分。私は神社にいます。あと十数分で1月2日になる。昨日の今頃はきっと人がごった返してたんだろうけど、今日はそこまで混雑していない。 それにしても尋常じゃないよこの寒さ。ガクブルしているとウタがマフラーを貸してくれた。 クリスマスくらいから思ってたんだけど、ウタって普通にいい男だね。なにこの気遣い。こんなのショカさんくらいしか出来ないと思ってたのに。 「なに香苗寒いんだ? ほんじゃおれがあっためてやるよ」 と言っておっきーが手を出してきた。握れと。手を繋げと。 そっと右手を重ねてみる。あったかい。 「誰があんたなんかとキャッキャウフフするかぁー! ていうか手あったかいな! 手が温かい人は心が冷たいんだからな!!」 ばしんと叩き落す。絶対おっきーの事だから手握った途端に何かしら悪戯仕掛けてくるはず。そんな小賢しい罠に引っかかる私ではないのだ。 「おっきーと繋ぐくらいなら唯先輩と繋ぐ方が何倍もいいもん!」 「へぇー。じゃあはい」 ものの例えで出した唯先輩の名前。なのにとんでもない現象が起きました。 東さんが何でもないように、私の手を掴むと、近くにいた唯先輩の手に乗せたのです。 ……にぃぎゃああああっ!! ぶるぶるぶる。寒さっていうか恐怖で身体が震える。 あ、あ、悪の大王に触れてしまった私死ぬかもしれない……っ。ていうか 「唯先輩の手もめっちゃあったかい……!」 がくっと崩れ落ちた。自分で言っといてなんだけど、手があったかいと心が冷たい理論が実は信憑性あるんじゃないかって気がしてきてちょっぴりショックだ。 「お前が冷た過ぎんだよ」 唯先輩はポケットから取り出したカイロを、ぽいと私の手の平に乗せた。 あ、なるほど。これ握ってたからあったかかったのか。 ……え? これもらっていいの? 驚いて先輩を見ると、もうスタスタと歩き出していた。 うおおおお! 香苗は大王のカイロを手に入れた。 これ家宝にしていいかな。だって唯先輩にもらったんだよ、この稀少価値は金のエンゼルマークが手に入るのに匹敵するね! 握りしめて拳を掲げて喜んでいると隣から「安い女……」とおっきーが何か言ってきたけど無視です。 いいのよ、私の心は今ほっこりしてるんだ。ほっといてよ。 ふと周囲を見渡してみると、離れたところでウタがぼーっと空を見上げていた。 うーん、時芽に浮世離れしてるって言われるだけあって、こういうのが絵になるくらい似合っちゃうなぁ。 そのまんま異世界トリップなんてしないでね。 「ウタ、神様に願い事しに行こうよ」 何気なくウタの手を引っ張る。あ、冷たい。 そっかぁウタは心が温かいのね。やっぱり良い子なんだね。 カイロを握ってる方でウタと手を繋ぐと、はにかんで見せるもんだから萌えたのなんのって。もうちょっとで鼻血出すところだったアブナッ! お賽銭を入れて手を合わせて念入りに願う。 「香苗の願いが叶うといいな」 ちょっぴり照れながらウタがぼそりと呟いた。 ――――良い子やーーーーー!! なにこの子、ホントに狂犬とまで言われた不良さんですか!? 瞳孔開いてイッちゃった表情で人ぶん殴ってた子と同一人物!? 半年間でのこの成長っぷりに感動を覚える。 「ウタのもね」 ほのぼのと微笑み合っていると、口をへの字に曲げたおっきーがこっち見てた。 だーかーら、さっきから何なのよこの人!! なんなの、稔だけじゃなくウタまで取る気? 私が仲良くしてたらジェラってんの? ばーかばーか、ウタは私の方が付き合い長いし仲良しなんだから! 私がおっきーを威嚇していると、彼は私の肩をがばっと抱いて小声でとんでもない事を言い出した。 「おれとしては親友の稔を応援してやりたい所なんだけどなぁ。意外と高鳥も健気だし、ちょっと頑張ってほしいとか思っちまうよなー。ていうか香苗ってまだ西峨さんの事好きなん?」 「ぎゃーぎゃーぎゃー!! 何言ってんの!? 何でそんな事言ってんの!?」 ばちーんと思わずほっぺたに平手打ちを食らわせてしまった。ごめん、そんなつもりは無かったんだけど。 いやだって、おっきー今なんて? 小声だったからおっきーが何言ったか聞こえてなかったウタは、急に私がご乱心したのに驚いてきょとんとしている。 いいのよ、聞こえてなくていいの! 「え、だって言ってたじゃん小学生の時」 「うえぇ言った!? 私そんな恥ずかしい事言った!? てかなんでそんなの覚えてんのー!」 「うーん」 何かを誤魔化すように曖昧に笑ったおっきーはそれ以上答えようとはしなかった。 私の嬉し恥ずかし初恋秘話がこんな所で飛び出すなんて誰が予測するよ。あまりの事に嫌な汗かいちゃった。 さっきまでと違って暑いわ。 「お前等夜中に騒ぐなよ、ご近所迷惑だろ?」 「不良に言われたくない!」 夜中に乱闘騒ぎ起こしたりバイクで疾走してたような東さんに言われたらもうおしまいだよ。人として。 それに今日はお正月だし大目に見てくれるはず。 パタパタと手で顔を仰ぐ。はぁちょっと落ち着いてきた。 「もー、おっきーが変な事言うからだよ」 「おれのせいかよ」 どっからどう見てもそうでしょうが。おっきーがあんな事言い出さなければですねぇ。 「さみー」 「みぎゃぁっ!!」 急に背後で唯先輩の美声がしたせいで奇声を発してしまった。 騒ぐなと言われた所だから慌てて口を押える。ていうか今このタイミングで唯先輩の顔見るのはちょっと居た堪れない……。 そっと目を逸らすと、何か睨まれたような気がしたけど直接見たわけじゃないから分らない。 前 | 次 戻 |