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「そういやお姉ちゃんはご飯ってどうしてんの?」

 ほぼこの家で一人暮らししてる状態なんだよね。夏休みも冬休みも帰ってきた時に冷蔵庫開けたら空っぽだったんだけど、料理してないのかな。
 
「わたし? わたしは作ったり作られたりよ」
「作“られたり”?」
「あっ」

 しまった! と姉が口を押える。あらあら口が滑るなんて珍しい。一家団欒なんて滅多にないから気が緩んでるのかも。
 さぁさて一体誰に作ってもらっているのやら。あれか、姉の彼氏は今流行りの料理男子か。男飯とか作っちゃうのか。
 母はニヤリと、父はほほう、と両者思いがスケスケな笑みを浮かべている。

「うん、でもまぁ。二人共いつお嫁に行ってもいい料理の腕前だと思うよ、お父さんは」

 エビの天ぷらを咥えてモソモソさせながら父が微笑む。褒めてもらった所申し訳ないんだけど、上下に動くエビの尻尾に気を取られて話半分だったよごめんね。
 
「もう後は稔くんが結婚出来る歳になるのを待つだけよね」
「ですねぇ」
「げほっ!」

 うふふ、あははと笑い合う両親のせいで稔が咽た。
 うわ、蕎麦で喉詰まらせるって辛そう!
 
「稔大丈夫?」

 苦しそうに口を手で押さえる稔の背をとんとんと叩く。
 息がしづらいのか顔が赤くなってる、可哀そうに。お茶を差し出すと凄い勢いで飲み干した。
 
「あの、なんで俺が関係」
「初孫は男の子がいいかなぁ、女の子かなぁ」
「どうしたお父さん」
「もうこの人はダメだ香苗、完全に脳みそが花畑に投げ込まれてる」
「いっそ花畑に捨ててこようかしらね」

 斜め上をぼんやりと見つめながら父が妄想に耽っている。多分、あの人の脳内では既に孫が小学生くらいになっているに違いない。
 「この歳でお祖父ちゃんかぁ」とブツブツ言ってる姿がもう痛々しいったらない。
 
 早く帰って来てお父さん! 稔がリアルに引いてるから!
 一見常識人っぽい父は一度突っ走るととことん行かないと気が済まないんだよね。
 そうと分かっていて、けしかけるのが母の役目。面白いからってほどほどにしてもらいたいよ。
 
 綺麗にお蕎麦を完食した母は、自分で仕掛けたにも拘わらず恐ろしいまでにスッパリと父を放置して、じっと稔を見詰めながら言った。
 
「男の子でも女の子でもいいから、ていうか何人産んでも構わないから、全員稔くん似の子どもにしてあげてね可哀そうだもの」
「何なの!? 私に似たら可哀そうだっていうの!?」

 私そんな見れない顔してる!? 完璧に母似だけど! そっくりだけど!
 
「そうは言ってないわよ。ただ後世に残すとしたら稔くんの顔の方がいいに決まってんでしょ。子どもも喜ぶわよ」
「くっ、否定出来ない……!」

 そりゃあね、だって浪形さんのDNAを受け継いでんだもの、あの顔じゃないなんてもったいなさすぎるよね! 私もこの顔大好きだよ、ほんっとイケメン。
 
「何の話ですか! ていうかどっちに似るとかそんなの、どうにもならないんじゃ」
「稔くん、それは仕込みの問題だよ」
「だから何の話ですか!!」
「あら酔ってるわね」

 実は晩ご飯の時から父はちみりちみりと熱燗を呑んでいたりする。お酒弱いくせに飲みたがるんだよね。
 なんだ、妄想がいつもより激しいなぁと思ってたら酔ってるのか。納得です。
 



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