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「ねぇお昼ご飯まだでしょ? 色々買ってきたのよ一緒に食べましょ」

 父からパンパンに膨らんだビニール袋を奪った母は、テーブルの上にお惣菜を並べだした。
 
 会話にも加わらず黙々とパソコンと格闘していた姉も漸く中断する気になったようだ。
 年賀状間に合わないに1票。
 
「さっきも言ったけど、元気そうで良かったよ香苗。とんでもない高校生活を送らせちゃってるから、これでも一応心配してたんですよ」
「お父さんさっきから香苗の事ばっかね。わたしはどうだっていいっての?」

 拗ねてるわけじゃなくて、ニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべて姉が聞いた。
 父は「違う違う!」と慌てて否定した後、天然でとんでもない爆弾をぶん投げた。
 
「紗衣は勉強は順調? 卒業したら結婚ですか?」

 け……っ!
 私と姉が同時に固まった。
 割り箸圧し折るかと思った。
 
「お姉ちゃん結婚するの!?」
「そうなんですか! おめでとうございます」

 稔は他人事だと思ってお祝いの言葉なんて言っちゃったりして。
 
 そんな簡単に……。お姉ちゃんがお嫁に行っちゃうんだよ!?
 
「何で教えてくれなかったの!?」
「教えるも何もわたしだって初耳じゃい! てかしないわよ、そんな話1度だって出た事ないわ!」
「あ、そうなんですか」

 さらっと納得した父。ちょっと言ってみただけだったらしい。
 なんだもう紛らわしい! 本気で焦ったわ。
 
 そういや未だに彼氏さん見た事ないんだよね。全然紹介してくれないんだ。
 隠さなきゃいけないような人なんだろうか。
 香苗心配です。
 
 1人全く動じた様子もなく母はご飯を食べ続けている。
 
「でも2人ともいつかはお嫁に行っちゃうんですよね、淋しいなぁ」

 なんでかおセンチなおとっちゃん。
 急にどうしたんだ、普段はこんな話する人じゃないんだけどな。
 
 1年の終わりに何か思う事でもあったんだろうか。
 てか何かの伏線じゃないよねこれ?
 この後重大な事件が起こるとか、そういう展開じゃないよね? 漫画じゃあるまいし。
 
「それで香苗、学校は本当に大丈夫なの? 女だってバレたりしてない?」

 お箸で差してくる母。
 行儀悪いなぁ。
 
「ボロは色々と出始めてるけど、今のところ大丈夫。稔と依澄がいてくれるし、ああでも唯先輩にバレたのは痛かった……」

 先生に言いつけるとか、そんな心配は全くないけど、これをネタにどんな脅しが来るか分かったもんじゃない。
 
「唯?」
「西さんだよ」
「ついに見つかったの。御愁傷様」

 姉はからあげを頬張りながらまるで他人事だ。
 酷過ぎる。
 
「紗衣も知ってる子?」
「うん、近所に住んでる素行不良の奴だけど大丈夫だよ」
「あらそう」

 だから、なんで私が男子校に行く元凶となった2人がこんな無責任なの!?
 父を見ても、心配した様子もない。
 
 はくじょうもの!
 
 稔はちょっぴり遠い目をしてた。
 私に少し同情してくれたらしい。
 やっぱり私の味方は稔だけだ、おお心の友よ!
 



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