「まだお名前聞いてなかったわね」

 友達に品定めしないと言いつつも、ちゃんとチェックはしていくのね。
 
「えぇと、折笠基くんと時芽秋月くんと、こっちが方波見稔くん」

 それぞれ頭を下げて挨拶したところで母親が首を捻った。
 
「秋月くん……?」
「はい」
「それって、苗字よね?」
「はい、そうです」
「えええええっ!?」

 ガタン! 驚いて立ち上がろうとしてテーブルに膝ぶつけた。滅茶苦茶痛い。
 
 あ、秋月って下の名前じゃなかったの!?
 時芽が苗字じゃないの!?
 
「マジで今まで気づいてなかったのか……」
 
 呆れ顔を稔が私に向けてくる。
 いや、だって。
 
「テストの答案用紙にも時芽秋月って書いてたじゃん!」
「別に間違えてるわけじゃないから、注意されたりしないよぉ」
「つか、何のために!?」
「カナくんを驚かせるためにぃ。ドッキリ大成功!」

 きさまあああ!!
 私一人騙すためにどこまで力入れてんだ!
 
 初めて喋ったとき「僕、時芽秋月。時芽って呼んでね」って言われて、ああ名前で呼ばれるの嫌な人なのかって思ってたからずっとずっと時芽って呼んでた。
 基も時芽って呼んでたし。
 
 でも稔が秋月って呼んでて、しかも稔って皆苗字呼びなのに時芽だけ違ってたから、あらやだよ、稔は特別? 稔にだけは許してるのね、稔も時芽だけはうふふふって妄想したのは1度や2度じゃないんだぞ、私の胸の高鳴りどうしてくれんだぁぁっ!!
 
「……いや待て待て、出席番号オレの前じゃん。秋月が苗字だったら一番のはずじゃん!」
「替わってもらってんの」
「テストの時も!?」

 こっくり。頷く時芽。
 こいつ何やってんだーっ、そして先生も注意しろーっ!
 
「み、稔は何で知ってたの?」
「俺は普通に自己紹介されたし。むしろ何で堂島がずっと名前逆で言ってんのかって思ってた」
「なんでだあぁぁっ!」

 ほんっとどうして気付かなかったの私。
 もう冬休みだよ!? 1年の3分の2は終わっちゃってんよ!?
 
「まあまあ、逆に覚えてたくらい大した問題じゃないよぉ、どうせすぐ時芽って呼ぶようになってたっしょ?」

 へらへらと基がフォローする。
 何気に良いヤツ基。
 
 そりゃあそうだけど。かなり早い段階でここにいる3人とも下の名前で呼ぶようになってたし。
 
 うう、基に免じて許してやろう。
 
 それにしても、何故ウチの母は気づいたのか。
 秋月って苗字に心当たりでもあったのかな。
 
「みんないいお友達ね」

 名前を聞いて満足したらしい母は立ち上がった。
 もう仕事に戻るようだ。
 
「そうそう、稔くん。年末には私とウチの人戻って来るから、一緒に年越し蕎麦食べましょうね」

 だからお正月も遠慮なんかせずここに滞在しろよって事だ。
 
 言外に含まれた意味を理解して稔はもう一度頭を下げた。
 
 ちなみにウチの人って父の事。
 そういや稔と父、まだ会ってなかったなぁ。
 
 私の家族は父親以外見事に女ばっかだから稔がいたら喜ぶんじゃないかな。
 



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